研究課題/領域番号 |
26400524
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
比屋根 肇 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (70192292)
|
研究分担者 |
森下 祐一 静岡大学, 理学部, 教授 (90358185)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 二次イオン質量分析 / 誘導結合プラズマ質量分析 / 初期太陽系 / 同位体不均一 / ホウ素同位体 / マグネシウム同位体 / 始原的隕石 |
研究実績の概要 |
本年度は、(1)二次イオン質量分析(SIMS)を用いたBe-B同位体分析、(2)同じく酸素同位体分析、(3)誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)を用いた高精度Mg同位体分析の三つの課題に力を注いだ。(1)初期太陽系における同位体不均一の原因として、近傍の星(超新星)からの放射性核種をふくむ物質の混入や、原始太陽からの高エネルギー粒子と太陽系物質との相互作用(核破砕反応)による放射性核種の生成が考えられている。後者のプロセスで生成される10Be(半減期140万年)の分布を調べることは、初期太陽系における物質の生成環境(原始太陽からの照射をどの程度受けたか)を知る上で重要である。Y81020 (CO 3.05) とSaU290 (CH3) のふたつの始原的隕石中のCAIについてNanoSIMSを用いた10ミクロンスケールでのBe-B同位体分析試みた。Y81020中のCAIからは有意な過剰10Bが検出されたが、SaU290中のCAIからは検出されなかった。このことは、10Beの分布の不均一性、すなわち、CAIの生成環境が隕石グループごとに大きく異なっていることを示唆する。すなわち、CAI生成に空間的あるいは時間的なバリエーションが存在する可能性を示唆する。(2)では、3ミクロン領域での酸素同位体分析をめざしてNanoSIMSを用いて分析法の開発に取り組んだ。現時点では電子銃の調整に困難があり、再現性に問題を残している。引き続き分析法の改良に取り組む。(3)初期太陽系の年代学において重要な26Alの分布がどの程度均一であったかを検証するため、ICP-MSを用いた高精度Mg同位体分析の準備を進めている。本年度は、いくつかのスタンダードの作成と、それを用いた分析精度、再現性のチェック、およびイオン交換樹脂を用いた隕石試料からのMgの精製法の確立に大きな進展があり、分析法に関してはほぼ準備が整いつつある。現在、CV隕石のCAIと普通隕石のコンドルール試料を準備しており、詳細な分析をおこなう予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、研究の新展開をはかるため、とくに新たな分析法の開発に精力を注いだ。具体的には、NanoSIMSを用いた微小領域でのBe-B同位体分析法、おなじく酸素同位体分析法、さらにICP-MSを用いた高精度Mg同位体分析法の開発に取り組んだ。それぞれの分析法において大きな進展がみられており、今後、これらの分析法を用いて試料の分析を進めることにより、初期太陽系における同位体均一化プロセスの解明に大きな貢献ができると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
従来法に加え、開発中の新たな分析法を用いて、さまざまな始原的隕石グループ中のCAIやコンドルールなどの分析を進め、初期太陽系における同位体均一化プロセスの解明をめざす。とりわけ、従来おこなわれてこなかった微小領域のBe-B同位体分析は、初期太陽系における物質の生成環境(原始太陽からの照射条件)を知る上で重要な情報をもたらすと考えている。すでに隕石グループごとにCAIが異なる照射環境で生成された可能性を示すデータを得ている。また、コンドルール中の10Beの存在度はよくわかっておらず、コンドルールの成因を理解する上で重要である。過剰10Bの存在が示唆されているY82094(Cコンドライト、ungrouped)を国立極地研究所から入手し、今後分析をおこなう予定である。また、ICP-MSを用いた高精度マグネシウム同位体分析は、標準試料の整備、試料からのマグネシウム精製法の確立など、実用段階にはいっており、分析精度・確度の検証ののち、始原的隕石に含まれるコンドルールおよびCAIの分析をおこなっていく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度は新しい分析技術の開発に力を注いだため、そのための物品費(ICP-MS用の標準試料作製のための薬品類、消耗品費)が生じたが、逆に、実際の試料の分析については当初予定よりも少なくなり、結果的に分析関連の経費が多少すくなく抑えられた。結果として、使用金額の総額が多少減少することになった。しかし、これは研究の新展開をはかるために年度内での力の配分を変更した結果であり、研究の大きな流れに変更はない。むしろ、次年度以降効率よく分析を進める土台ができたと考えている。
|
次年度使用額の使用計画 |
新たな研究の展開をはかるための分析法の開発が順調に進んでおり、今後は実際の試料の分析を精力的に進めることが可能になった。研究の流れに大きな変更はなく、ほぼ当初計画どおりの研究費の使用を考えている。研究費の使途は、物品費と旅費が主なものである。物品費の内訳は、SIMS関連の消耗品費、隕石試料作成に必要な消耗品費などである。旅費は、東京大学から分析装置のある産業技術総合研究所(つくば市)や、NanoSIMSがある柏キャンパス大気海洋研究所までの旅費、および学会等への旅費として使用する。
|