本研究では、地球外核条件下における鉄といくつかの軽元素(水素、硫黄、酸素、ケイ素、炭素)との液体合金について、第一原理計算を用いて、密度及び音速の計算を行った。すでに硫黄と水素についての結果をまとめ、Geophysical Research Lettersに2本論文を掲載した。また、これらの研究によって、鉄と硫黄のみの液体合金では地震波測定の密度と音速は再現できないが、鉄と水素の合金なら、およそ1重量%の水素が入ることにより、地震波測定の結果と整合的でになることを突き止めた。ついで、残りの軽元素についても同様の計算を行った。その結果、水素と酸素との液体鉄合金が、もっともよく地震波測定を説明できることを明らかにした。水素とケイ素との液体鉄合金もまた地震波測定を説明できるが、水素と酸素との場合に比べて、若干、一致度が低い。しかし、地震波測定と計算の誤差双方を考慮すると、密度と音速からだけでは、軽元素の種類と量を決定することは困難である。水素は他の軽元素に比べて特異な性質を示す。地球外核・内核に相当する高温高圧下で鉄の副格子が液体で無くなっても、水素は鉄格子内を自由に動き回り、空間的に見ると水素はほぼ一様に分布しているとみなせる。水素が入ることにより、温度プロファイルを決定するなど地球物理的に非常に重要なグルナイセンパラメータが大きく下がることがわかった。また、各軽元素候補との二元系の液体鉄合金の密度と音速から、(関心のある軽元素濃度においては)多元系の密度と音速が、軽元素濃度に対してほぼ線形的に振る舞うことを示した。これにより、多元系の液体鉄合金の密度と音速を、二元系の液体鉄合金の結果から推定できることを示した。
以上のことについて、招待講演を含むいくつかの国際学会において発表を行った。また、すべての軽元素候補についての研究をまとめた論文を現在執筆中である。
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