研究課題/領域番号 |
26400527
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研究機関 | 独立行政法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
羽生 毅 独立行政法人海洋研究開発機構, 地球内部物質循環研究分野, 主任研究員 (50359197)
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研究分担者 |
小川 奈々子 独立行政法人海洋研究開発機構, 生物地球化学研究分野, 主任技術研究員 (80359174)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 炭素 / マントル / 物質循環 / 揮発性元素 |
研究実績の概要 |
平成26年度は当初計画通り、火山岩試料から揮発性成分を抽出・分離する装置の構築、超微量の二酸化炭素の同位体分析法の改良、次年度目以降に測定を行う火山岩試料の準備を行った。 揮発性成分を抽出・分離する装置の構築については、真空破砕法により火山岩試料から揮発性成分を抽出した後、冷却トラップで水を除去し、二酸化炭素を液体窒素トラップで隔離し、希ガスであるヘリウムとアルゴンの回収を効率良く行うためのラインを設計し製作した。標準ガス試料を用いてテストを行い、分離と回収を問題なくできることを真空圧力計と四重極質量分析計を用いて確認した。 超微量の二酸化炭素の同位体分析については、当初使用を予定していた安定同位体質量分析計を用いるよりも、当該機関に最近導入されたレーザー分光装置を用いた炭素同位体質量分析のほうが微小量でも簡便に精度良く分析できる可能性があることが分かり、今後この装置を研究に用いるべくテストを行った。 測定を行う火山岩試料の準備については、中央海嶺玄武岩、南太平洋ポリネシア地域の海洋島玄武岩等の中から、揮発性成分の研究に適した水中急冷ガラスとオリビン斑晶を選び、測定試料として準備した。特にオリビン斑晶中の揮発性成分の大部分はメルトインクルージョンにトラップされていると考えられているが、メルトインクルージョンの微細構造に着目してどのような相に揮発性成分が分配されているかはまだよく分かっていない。そこで、メルトインクルージョンに含まれるメルト相、急冷結晶相、収縮気相の揮発性元素の含有量と分布を局所分析で明らかにすべく、メルトインクルージョンの準備も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記のように初年度に計画した項目は実施することができた。本研究は火山岩の水中急冷ガラスやオリビン斑晶といったバルク試料を用いて、揮発性成分のマクロな挙動、すなわち脱ガス等によるフラクショネーションを希ガス同位体で補正しながら、マントル由来のマグマが本来持っていた炭素同位体比を決定するのが目的であり、そのために必要な準備を初年度で行うことができた。その一方この1年間の研究の中で、マグマ中の揮発性成分のミクロな挙動も併せて理解することで、炭素同位体比の解釈がより強固なものになると気づき、オリビン斑晶に含まれる一つ一つのメルトインクルージョンを詳細に調べる研究も平行して行うべく準備を行った。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度に構築した二酸化炭素と希ガスの抽出・分離システムを用いて、最初に標準試料の測定を行い、分析の安定性・信頼性を確認する。その上で、準備した火山岩の水中急冷ガラスやオリビン斑晶を用いて、炭素同位体比と希ガス同位体の同時測定を試みる。 実際の測定を行うことで開発段階では想定していなかった問題点が浮かび上がってくる可能性があり、さらに装置の改良と分析の効率化をはかりながら、ルーチン的な測定が可能となるようにする。 実試料の測定では、未分化なマントル物質に由来するハワイの火山岩をテストケースとして最初に行い、マントル深部炭素の検出を試みる。ハワイの火山岩には同一試料から水中急冷ガラスとオリビン斑晶が得られる試料が存在する。一つの火山の複数の溶岩中の火山ガラスとオリビン斑晶は様々な程度の脱ガスを受けていると考えられるので、これらの試料が持つ炭素同位体比と希ガス組成の同時測定から、マグマ上昇に伴う脱ガス過程で両者がどのように分別するかを調べる。 さらに、南太平洋ポリネシア地域の火山岩試料に対して同様の測定を行う。この地域の海洋島の火山は、太古には地球表層に存在した地殻物質がマントル内に沈み込み、再上昇して生成されたマグマが噴出した場所と考えられている。従って、マントル深部に存在しうるリサイクル炭素を検出するのに最適な試料なはずである。また、炭素を始めとした揮発性成分の挙動をミクロな視点からも明らかにするために、同火山岩試料のオリビン斑晶中のメルトインクルージョンの持つ揮発性元素を、SIMS、ICP-MS、顕微ラマン分光を用いた局所分析技術を応用して測定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
揮発性成分の抽出・分離装置の構築に必要な部品を、当初の想定よりも安価に購入できたため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度に行う化学分析に必要な消耗品購入に使用予定。
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