研究課題/領域番号 |
26400529
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
副島 浩一 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (50283007)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 水素原子標的 / 多価イオン / 低速衝突実験 |
研究実績の概要 |
水素原子を低速多価イオン衝突実験の標的として用いることができるように,断面積測定装置の衝突領域の構築を主に進めた.100eV以下の衝突エネルギーでの実験を可能にするために衝突領域に設置しているイオンビームガイドを用いて断面積を測定するためには,水素原子ビームと多価イオンビームを直角に交差させる必要がある.そこで,既存の6方チェンバーを使用して衝突チェンバーの整備をおこなった.それと同時に,データ収集システムの構築にもとりかかった.電源等の制御はGPIB経由でおこない,計測器からの信号はデジタルカウンターに取り込み集中的に管理することにした.そのためにナショナルインスツルメント社のPCIボードとラボビューを使い測定プログラムの構築を進めている.現在,マススペクトル取得プログラムまでの作成が完了していて,データ集積用のPCIボードは共に問題なく動作することが確認されている.また,電荷交換反応で生じる生成多価イオンと入射多価イオンを効率的に分別するために使用予定の二次元検出器に必要なトランジェントレコーダーの整備もおこなった.2次元検出器本体の導入が完了していないため2次元スペクトルの取得はできていないが,トランジェントレコーダーの動作確認は疑似信号を使って実施済みで,二次元観測に向けた準備はほぼ完了している. 一方,タングステン多価イオンとHeとの衝突実験の電荷交換断面積の実験データが,国際原子力機関(IAEA)の原子データ評価部門で注目を集め,3rdCRP会議に招聘され,電荷交換断面積の衝突エネルギー依存についての講演をおこなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
26年度計画では,衝突領域の整備とイオンビームガイドの性能評価,水素ガス導入用の排気系の整備を実施する予定であった.このうち,一番重要な衝突領域の整備は,水素原子源の性能評価と共に完了している.その際に浮かび上がってきた問題点として標的ガス密度の不足がある.これは,断面積測定を時間溜めこみ法でおこなうことで回避する予定である.イオンビームガイドの性能評価も実施済みで,入射多価イオンを1eVまで減速させてもほとんどイオン強度が変化しない事を確認し,設計通りの性能が得られていることが分かっている.唯一排気系の整備が遅れているが,必要な排気装置等の手配は完了しているので,27年度の早い段階で排気系の整備は完了する予定である.以上の事から,26年度は当初計画をおおむね達成できた.よって27年度は,回転結合効果が理論的に予想されている水素および重水素原子を標的にしたα粒子との衝突において電荷交換断面積の測定が実施できる.
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今後の研究の推進方策 |
水素原子を標的にした低速多価イオン衝突実験の準備は順調に進行しているので,電荷交換反応に現れる回転結合効果を明らかにする当初の研究計画の目的は達成できる可能性は高い.そこで,当初計画通りに今後も研究を進めていく予定であるが,理論計算による研究割合を減らし,その分実験的な研究に重点を置く予定でいる.また,26年度に実施した水素原子源の性能評価によって浮かび上がってきた標的ガス密度の不足を回避するために,生成イオンの溜めこみ検出をおこなう.そのために,27年度の早い段階で,当初から導入予定であった二次元検出器によるイオン検出を実現できるように,装置の整備を行う予定である.その後,α粒子を対象にした電荷交換反応を集中的に測定することで,3粒子系における回転結合効果を実験的に明らかにする.28年度は重粒子多価イオンへ対象を広げることで,3粒子系で理論的に予想されている回転結合効果が,多数の電子を含む重粒子多価イオンでも同じように現れるのか実験的に確認していく予定である.
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