低エネルギーのタングステン多価イオンと水素原子(H)および重水素原子(D)の衝突実験をおこない,H/D標的の電荷交換反応断面積の衝突エネルギー依存性を比較することで,電荷交換反応に標的同位体効果が現れるか実験的に確認することを目的に研究を進めた.水素原子を標的にした低エネルギー衝突実験の準備は整い,実験室系で10eV以下の衝突実験が可能であることを,アルゴン多価イオンを使った予備実験で実証できたことは1つの成果である.また,熱解離型水素原子源を使って得られる水素原子標的の数密度が,断面積の絶対値測定をおこなうには十分でないことを懸念していたが,これも予備実験によって,十分とはいえないが,測定をおこなうことは可能であることを確認した.そこで,半古典的な理論計算によって標的同位体効果の発現が予想されているα-H/D系に対して,1電荷交換反応断面積の測定をおこなった.水素解離度の決定を衝突領域で精度よく測定できていないため,絶対値測定をおこなうことは現時点ではまだできていない.予備実験的な相対値測定ではあるが,理論計算が予想するとおり,1電荷交換反応断面積の衝突エネルギー依存にはH/D標的で大きな違いが観測された.すなわち,低エネルギー領域において,D標的の電荷交換反応断面積はH標的に対いてほぼ1桁大きくなる結果を得た.現在,絶対値測定をおこなうべく,準備を進めている最中である.一方,多価イオン源の真空トラブルのためタングステン多価イオンに対する電荷交換反応断面積の測定は進めることができなかった.現在多価イオン源の10-5Paオーダーの真空漏れ修理を鋭意進めているが解決の目途はたっていない.そのため,タングステン多価イオンをつかった断面積測定は大幅な遅れが生じてしまっている.
|