大強度自由電子メーザーの高周波化に伴い必然的に生じる共鳴領域の小型化には,エネルギー源である電子ビームの小径化が要求され,大強度化の支障となる。このため,共鳴領域を従来の円筒軸対称型から,平行平板型に変更し,そこに複数の電子ビームを入射する事で強度を確保する方式を試行した。実際の共鳴領域は,厚みが薄く巾の広い矩形導波管を用いた。 本研究の最終目的であった平板型自由電子メーザーの実験に関しては。装置の老朽化に伴う絶縁破壊等の事故が頻発し,その対応に多大な時間を費やしたためその検証には至らなかった。時間と費用の面から絶縁破壊の完璧な修復は期間内に不可能と判断し,印加電圧を下げて,複数電子ビームの矩形導波管中の伝搬特性の実験を行った。その結果,ビーム断面形状の移動,変形,回転が説明可能な数値計算モデルの構築に成功した。 導波管内を電子ビームが伝搬する際には,自己電場Eと軸方向ガイド磁場BによるE×Bドリフト運動が起こる。円筒型装置の場合,電場の軸対称性からビーム断面形状は初期の円形のまま伝搬する。しかし,矩形導波管中を円柱状の電子ビームが伝搬する場合,電場の非対称性による断面形状の変形,断面の重心の移動,複数電子ビームの場合には更に,互いの電場により相対的に回転する。これらの結果を実験から定量的に確認した。ビーム断面を分割したモデルに,分割された電子ビームによる電場,磁場及び鏡像電場と軸方向磁場を考慮した相対論的運動方程式を適用し,計算結果と実験結果の良い一致を見た。このモデルにより,種々のパラメーターで複数ビームを矩形導波管内に入射した際の伝搬特性の推定が可能になった。 また,40GHz平行平板型ブラッグ反射鏡を作成し,その周波数特性の実験結果から,理論的に予想された通り,平板型でも通常のブラッグ反射鏡に比し,アドバンストブラッグ反射鏡の反射周波数帯域が狭い事を確認した。
|