低温(10-50 K)な星間分子雲では,水素(H)・重水素(D)原子による星間塵の表面トンネル反応が重要な化学過程となる.また,芳香族炭化水素は星間塵の核となる物質としてよく知られている.本研究では,H(D)原子によるアモルファスベンゼン(C6H6)の表面トンネル反応の実験研究をおこなった.ベンゼンへのH(D)原子付加反応は高い活性化エネルギーがあるにもかかわらず,トンネル効果により,シクロヘキサン(C6H12/C6H6D6)が生成することがわかった.この結果は,今まで化学的に安定と思われていた芳香族炭化水素が,星間分子雲においてもトンネル効果によってH(D)原子と反応をおこすことを意味する.
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