研究課題
周波数掃引型並びに磁場掃引型NMR装置を用いて、硫黄原子(S8)の硫黄33NMR測定を実施した。最適な実験条件を検出するため、ゼロ磁場NMRを用いて、40Kから300Kの間で緩和時間測定をし、硫黄原子の場合、T1並びにT2を考慮すると260Kが最適であることが判明した。260Kにおいて、6Tから0Tまで磁場を掃引し固体NMRスペクトルを得た。複雑な線形を示したが、シュミレーションプログラムを用いて、核四極子結合定数と非対象因子を得ることができた。前者は40MHz以上の値を示したが、通常のNMR装置では測定できないことを強調したい。また、有機硫黄化合物を測定対象とした固体NMR測定も行った。およそ0.01Tと低い外部磁場を用いた。このことにより、硫黄原子による核四極子相互作用に対して、磁場によるゼーマン相互作用が小さくなり、線幅を狭くすることが可能になった。硫黄原子の測定と同様に、適切な測定温度を求め、300Kが合理的な測定温度であることが判明した。そして、シュミレーションプログラムを用いて、正確な核四極子相互作用のNMRパラメータを算出することが出来た。得られたNMRパラメータと分子構造の相関を調べるため、量子化学計算を行った。X線構造解析から得られたDiphenyl DisulfideのS-S結合の二面各角を回転させ、それぞれの33S NMRパラメータを計算した。計算では、二面角とNMRパラメータに相関が認めら、実験結果とよく一致した。
1: 当初の計画以上に進展している
硫黄原子並びに有機硫黄化合物のNMR測定に世界で初めて成功したから。
硫黄33安定同位体標識を施した有機硫黄化合物並びに硫黄原子を含む高分子の合成を進め、硫黄NMR測定を引き続き実施していく予定である。有機化合物や高分子の硫黄NMRパラメータの文献は皆無に等しいため、実験で得られたNMRパラメータを分子構造などの物性との関連性を見出すことは非常に重要であると考えている。
昨今の円安で輸入品である硫黄33安定同位体標識物の購入価格が上がったため、予定の数量を確保することが困難となり、今年度の予算を繰り越す処置をとった。
繰り越した予算で(もしくは他の予算との合算も検討して)合成の出発化合物である硫黄33安定同位体標識を購入し、種類の異なる官能基を有する硫黄33安定同位体標識有機硫黄化合物並びに高分子の合成を進める予定である。
すべて 2014
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件)
Verlag der Zeitschrift für Naturforschung B
巻: 69 ページ: 786-792
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