結晶生成過程や結晶多形に関する詳細な知見は,生体中における溶解性を制御した医薬品などの結晶材料の合理的製造プロセスの開発,また基礎的には相安定性や分子間相互作用の解明の観点から重要である.本研究では,これら多形を引き起こす結晶生成過程の基礎的知見の獲得のために,濃度および蛍光変化を同時観測できる蛍光顕微鏡測定システムを開発し,会合誘起発光と多形を示す分子系を用いて多形発現過程と蛍光変化から得られる局所濃度の相関,またその時間依存性に関する知見を獲得し分子ダイナミクスに基づく結晶成長モデルを構築することを目的とした. 最終年度として,結晶多形による蛍光色変化を示すジピロリルジケントンフッ化ホウ素錯体の溶媒蒸発結晶化過程に対する蛍光変化に基づいて,多形発現過程について検討した.二段階核形成機構における液滴状クラスターを前駆体として結晶多形を発現していることを明らかにすることに成功した.この事実は,液滴状クラスターの分子ダイナミクスや化学種の構造,溶媒溶質間相互作用の詳細を明らかにすることによって,多形制御のための知見になり得ることを示している. 以上の研究より,蛍光分光法の特徴を活用することによって,蛍光分光法を数分子からバルクスケールにおける分子集合体の存在状態に対するプローブとして活用できることを実証した.また,濃度・蛍光変化の同時測定できる顕微鏡を開発し,有機分子結晶の多形発現過程をリアルタイムに可視化できた.その上で分子ダイナミクスに基づく結晶成長モデルを構築するという当初の目的を達成することができた.
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