研究実績の概要 |
水溶液中でのリガンド・フリー鈴木-宮浦クロスカップリング反応については、酸化的付加段階について、さらに計算を進めた。すなわち、トランスメタル化反応の全貌を明らかにした際、Pdには必ずハロゲン原子が一つは結合したまま反応サイクルが回っている可能性が高いことが平成27年度の研究で明らかになった。そこで、塩化ベンゼン、および、臭化ベンゼンが水溶媒中のPd単原子、および、Pd-X (X=Cl, Br)アニオンに酸化的付加する際の反応経路と反応自由エネルギー障壁を、第一原理分子動力学法によるブルー・ムーン・アンサンブル法を用いて見積もった。この結果、ハロゲン原子が結合したPdアニオンに対してもほぼ活性化障壁はPd単原子と同程度であり、反応エネルギーはPd-Xアニオンに対する反応の法がやや絶対値は小さくなり、その後の反応性が高い可能性が得られた。また、塩化ベンゼンの方が臭化ベンゼンよりもやや反応障壁が高く、この段階が律速段階になる可能性がわかった。さらに、酸化的付加が起こる前のη2錯体の状態ではPd触媒が凝集してしまい、劣化する可能性が高いことも明らかになった。すなわち、酸化的付加段階の活性化障壁が高ければPdが凝集する可能性が高くなり、これが塩化ベンゼンに対する反応性が著しく低い主要因であると考えられる。 以上から、リガンドフリー鈴木-宮浦クロスカップリング反応の全容が明らかになったので、平成26年度、27年度に得られた結果を踏まえて論文執筆を行った。酸化的付加段階の論文についてまとめてJournal of Physical Chemistry B誌に投稿したところ、好評価のレフェリーコメントが得られ、出版した。トランスメタル化段階についてもアメリカ化学会が出版する学術雑誌に投稿したところ、幾つかのレフェリーからの指摘事項があり、現在修正して投稿する予定である。
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