研究実績の概要 |
本年度は、まず、スパイラル型光伝導アンテナを用いたサブテラヘルツ時間領域分光装置の改良を行った。試料周辺の光学系のスケールアップをはかることで、低波数側の電磁波強度の増強を可能にし、30 GHzまで下限を拡張することができた。一方、エアープラズマを用いた高波数側の電磁波の発生の改良については、ある程度の改善が見られたものの、それと平行して行っていた、遠赤外スペクトルから複素誘電率を求める方法が大幅に進展したため、100 cm-1より高波数側のスペクトルは赤外領域仕様のFTIR分光器を用いて得ることにした。FTIR分光器では赤外吸収スペクトルのみが得られる。そこから複素誘電率を計算する計算手法とそのプログラムを作成した。これにより、3種類の水(H2O, D2O, H2(18O))について、0℃から80℃にかけて、ネットワークアナライザを用いて200 MHzから20 GHz、サブテラヘルツ時間領域分光装置を用いて、30 GHzから400 GHz、ダイポール型光伝導アンテナを用いたテラヘルツ時間領域分光装置を用いて、0.2 THzから3 THz、遠赤外および中赤外領域仕様のFTIR分光器を用いて、それぞれ、50 cm-1から700 cm-1、400 cm-1から1000 cm-1の測定を行った。また、福岡工大のネットワークアナライザを用いて50 GHzまで測定を行い、これにより、200 MHzから1000 cm-1までの複素誘電率スペクトルの温度変化を得ることができた。以上の複素誘電率に関する結果を、低振動ラマンスペクトルから得られた50 cm-1付近の分子間変角振動を考慮に入れ、デバイ緩和や減衰振動などのモデル関数を用いて解析を行い、水の複素誘電率の解釈を確立した。また、緩和の時定数の温度変化から有効な活性化エネルギー等を求め、その緩和過程に関与する分子運動を議論した。
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