研究課題
本研究の大きな目的は申請者らが開発してきたラマン円偏光二色性分光装置の更なる高感度化と、生命科学における重要課題への適用である。本手法は円二色性分光(いわゆるCD)のラマン分光版で、通常のラマン分光に比べて極めて多くの構造情報を提供する。特に溶液中では平面構造の分子がタンパク質中ではキラルな非平面構造になることに注目し、活性中心である補欠分子の構造的な歪みを検出できることを示してきた。本研究では我々が開発した装置の飛躍的な性能向上を図るとともに、光受容タンパク質における中間体の構造解析に挑戦する。平成26年度においては装置改良として、可視光装置の安定性の向上をめざした。さまざまな可能性を検討した結果、不安定性の原因を特定することができた。この安定性を悪くする原因を改良することで、装置を長期間運用した際の安定性を格段に向上することができた。この装置改良により本手法を用いた応用研究が大いに進展した。特に本年度はイエロープロテイン(Photoactive Yellow Protein)のラマン円偏光二色性スペクトルの励起波長依存性を検討することに世界で始めて成功した。また分子動力学計算と量子化学計算を併用した解析法に関しても取り組み、多くの計算の自動化に成功した。自動化によって分子動力学計算と量子化学計算を併用した解析をルーチンワーク的に実行することが可能となり、光受容タンパク質の系に応用することにも成功した。今後、この手法は新たな解析法になると期待している。
2: おおむね順調に進展している
本年度は自作の可視光励起ラマン円偏光二色性分光装置を長期間運用した際の不安定性について、その原因の検討と改善を行った。その結果、長期間運用に耐え得る安定性を示すように改良できた。またこの装置改良のため、光受容タンパク質のラマン円偏光二色性スペクトルについて、その励起波長依存性を検討することに成功した。また分子動力学計算と量子化学計算を併用した解析法を確立し、さまざまな系に応用できる準備が整った。
平成27年度はさまざまな試料および反応中間体への応用研究に本格的に取り組む。研究対象としては、本申請者が今まで研究対象としてきた光受容タンパク質とヘムタンパク質に注目する。これらの試料は可視光を吸収する発色団を含むため、可視光励起のラマン円偏光二色性分光では測定できなかった代表例であり、発色団やその周辺の構造情報やタンパク部分の構造に関する知見が期待できる。具体的にはp-クマル酸を発色団とする光センサーのイエロープロテインやバクテリオロドプシンについて、中間体のラマン円偏光二色性スペクトルの測定を試みる予定である。これらの試料は連携研究者の方々など(松山大学・田母神 純 助教、東京工業大学・増田真二 准教授、オクラホマ州立大・W. D. Hoff教授)から提供して頂く予定である。
本研究の開始当初は2015年3月に船橋市で開催された日本化学会春季年会に科学研究費補助金を活用して参加することを予定していた。しかし、3月上旬に米国サンアントニオで開催された米国物理学会において招待講演をおこなうことになり、日本化学会春季年会への参加を取り止めたため、次年度使用額が発生した。
次年度使用額を活用し、国内学会での発表や資料収集を行う計画である。
すべて 2015 2014 その他
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (10件) (うち招待講演 3件) 備考 (1件)
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