研究課題/領域番号 |
26410017
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
海野 雅司 佐賀大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50255428)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 国際研究者交流(米国) / 分子分光学 / 生物物理学 / 振動分光 / 光受容タンパク質 |
研究実績の概要 |
本研究の大きな目的は申請者らが開発してきたラマン円偏光二色性分光装置の更なる高感度化と、生命科学における重要課題への適用である。本手法は円二色性分光(いわゆるCD)のラマン分光版で、通常のラマン分光に比べて極めて多くの構造情報を提供する。特に溶液中では平面構造の分子がタンパク質中ではキラルな非平面構造になることに注目し、活性中心である補欠分子の構造的な歪みを検出できることを示してきた。本研究では我々が開発した装置の飛躍的な性能向上を図るとともに、光受容タンパク質における中間体の構造解析に挑戦する。 平成27年度においては、青色光センサータンパク質のイエロープロテイン(Photoactive Yellow Protein)をモデルとして用い、ラマン円偏光二色性スペクトルの励起波長依存性を検討することに世界で始めて成功した。特に、電子吸収帯に近い励起波長で測定したラマン円偏光二色性スペクトルの形状はラマンスペクトルの形状と同じであることを見出した。この結果はNafieによって1997年に提唱された共鳴ラマン円偏光二色性分光の理論と一致する結果であり、本理論を実験的に初めて証明することに成功した。また今回の結果より、ラマン円偏光二色性分光を用いた色素タンパク質の研究では適切な励起波長を選択する必要があることがわかった。この結果は今後の研究を進める上で、重要な実験指針となり、特に本手法を反応中間体に応用する際には鍵を握る情報だと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はラマン円偏光二色性スペクトルの励起波長依存性を検討した。研究対象としてSalinibacter ruber由来のイエロープロテイン(Photoactive Yellow Protein)を用いることで、近赤外励起だけでなく可視光励起のラマン円偏光二色性スペクトルを測定することに成功した。その結果、近赤外励起では前期共鳴効果により発色団のラマンバンドが増大されているが、可視光励起では共鳴ラマン円偏光二色性スペクトルが観測されることを見出した。この結果はNafieによって提唱された共鳴ラマン円偏光二色性分光に関する理論を実験的に証明する初めての証拠であり、ラマン円偏光二色性分光に関する研究分野に大きなインパクトを与える成果と言える。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度はさまざまな試料および反応中間体への応用研究に本格的に取り組む。研究対象としては、本申請者が今まで研究対象としてきた光受容タンパク質とヘムタンパク質に注目する。これらの試料は可視光を吸収する発色団を含むため、可視光励起のラマン円偏光二色性分光では測定できなかった代表例であり、発色団やその周辺の構造情報やタンパク部分の構造に関する知見が期待できる。具体的にはp-クマル酸を発色団とする光センサーのイエロープロテインやバクテリオロドプシンについて、中間体のラマン円偏光二色性スペクトルの測定を試みる予定である。これらの試料は連携研究者の方々など(松山大学・田母神 純 助教、東京工業大学・増田真二 准教授、オクラホマ州立大・W. D. Hoff教授)から提供して頂く予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の開始当初は2016年3月に田辺市で開催された日本化学会春季年会に科学研究費補助金を活用して参加することを予定していた。しかし、3月末に共同研究者のHoff教授が来日することになり日本化学会春季年会への参加を取り止めため、次年度使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額を活用し、国内学会での発表や資料収集を行う計画である。
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