研究実績の概要 |
イミダゾリウム系イオン液体と各種分子液体との混合溶液中におけるCo2+およびNi2+の錯形成平衡に関する研究に着手した。イオン液体1-ethyl-3-methylimidazolium bis(trifluoromethanesulfonyl)amide (C2mimTFSA)とアセトニトリル(AN)、メタノール(MeOH)、ジメチルスルホキシド(DMSO)を種々の分子性液体モル分率で混合して溶媒とし、金属塩Ni(TFSA)2およびCo(TFSA)2を溶解して試料溶液とした。25 Cで試料溶液に対する可視吸収スペクトルを測定した。C2mimTFSA中でCo2+とNi2+にはTFSA-が3分子配位し、6配位八面体錯体が形成される。分子性液体AN, MeOH, DMSOの電子供与性を示すドナー数は、それぞれ、DN = 14.1, 19.0, 29.8である。これに対して、TFSA-はDN = 7であり、その電子供与性は低い。したがって、可視吸収スペクトルのモル分率増加による変化は、遷移金属イオンに対するTFSA-と分子性液体の配位子置換反応に由来する。 スペクトルから見積もった遷移金属イオンに対する分子性液体分子の錯形成平衡定数は、Co2+では分子性液体の電子供与性の順番DMSO > MeOH > ANに安定な錯体を形成することを示した。一方、Ni2+ではANが最も安定な錯体を形成し、MeOH, DMSOの順番に平衡定数が低下した。このことは、配位子場安定化エネルギーの高いNi2+ではTFSA-が置換されにくく、分子性液体とイミダゾリウム陽イオンとの相互作用が配位子置換反応に影響するためであると考察した。実際、我々の研究からイミダゾリウム環水素原子と分子性液体はDMSO > MeOH >> ANの順番に強く水素結合することがわかっている。 また、SPring-8 BL17においてC2mimTFSAに対する軟X線吸収および発光スペクトル(XASとXES)測定を行った。イオン液体を構成するN, O, F原子のXASおよびXESピークは、DFT計算によりすべて帰属できた。
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