研究課題/領域番号 |
26410018
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
高椋 利幸 佐賀大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70291838)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | イミダゾリウム系イオン液体 / 分子性液体 / 電子供与性 / 錯形成安定度定数 / エンタルピー / エントロピー / 水素結合 / 酸化還元電位 |
研究実績の概要 |
25 ℃で決定した錯形成安定度定数の再現性をみた。錯形成メカニズムを詳細に議論するため35, 45 ℃でも安定度定数を決定し、van’t Hoffプロットにより錯形成平衡のエンタルピーとエントロピーを見積もった。1-ethyl-3-methylimidazolium bis(trifluoromethylsulfonyl)amide (C2mimTFSA)中におけるCo2+系の安定度定数はDMSO > メタノール > アセトニトリルの順番に大きく、分子性液体の電子供与性が錯形成平衡に寄与している。一方、Ni2+系ではDMSO = アセトニトリル > メタノールの順番で安定度定数が大きく、分子性液体同士の相互作用やイミダゾリウム環-分子性液体水素結合も影響していると考えた。C2mimTFSA中でNi2+とDMSO分子の錯形成はエンタルピー主導で起こる。電子供与性の高いDMSO分子が強くNi2+に配位することが錯形成平衡に最も寄与している。これに対して、Ni2+とメタノール分子は、エントロピー主導で錯形成する。C2mimTFSA中で強く水素結合しているメタノール分子同士が、それを切断してNi2+に配位する。水素結合切断によるメタノール分子の自由度獲得が顕著に寄与するためと考察した。C2mimTFSA-アセトニトリル中でのNi2+の錯形成平衡が最もエンタルピー的に起こることがわかった。アセトニトリルは電子供与性が低くNi2+に対する配位は弱いが、イミダゾリウム環水素原子との水素結合も弱い。したがって、DMSOと比較して、アセトニトリルはイミダゾリウム環との水素結合を切断するためのエンタルピーロスが小さいためだと考えた。 また、イオン液体アルキル鎖長依存性を明らかにするためにオクチル基を有するC8mimTFSAとメタノールとの混合溶液中での安定度定数を決定した。Co2+とNi2+のどちらでもC2mimTFSAと比較してC8mimTFSA中の安定度定数が小さい。イオン液体アルキル鎖が形成する非極性ドメインが、溶液中で大きな体積を占め、メタノール分子が移動しにくいためと考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
イミダゾリウム系イオン液体と分子性液体中での錯形成平衡に関する詳細なメカニズムは、熱力学的パラメータの決定から解明されてきた。軟X線吸収および発光スペクトルについては、Ni2+-C2mimTFSA-分子性液体中で測定を完了し、データの解析中である。総合して順調に研究が進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
平成26, 27年度に解明してきたイミダゾリウム系イオン液体-分子性液体中での遷移金属イオンの錯形成に対する知見ならびに軟X線吸収および発光スペクトル測定の結果に基づいて、平成28年度はCV測定により酸化還元電位したうえで、軟X線分光を実施する。これらのデータを総括して、錯形成の電子状態変化を明らかにする。これらの研究遂行のうえで現在問題となる事項はない。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度の残額が十分であったこと、学内の中期計画推進経費を獲得して本研究の試薬や器具購入に充てることができたことにより平成28年度にまわす予算が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
学内の運営交付金が大幅に減額されるため、科研費は貴重な予算である。国際会議での本研究の成果発表のための出張費などに使用する。
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