研究課題/領域番号 |
26410022
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
松本 剛昭 静岡大学, 理学部, 准教授 (30360051)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 円偏光二色性 / キャビティリングダウン / 微小液滴 / キャビティ増強吸収 |
研究実績の概要 |
ナノ秒パルス色素レーザーによる空気中水蒸気の光吸収を用いて蝶タイ型キャビティの性能評価を行った。70 cm×5 cmの長方形四隅に反射率99.995%の凹面鏡を置き、蝶タイ型光路となるようにレーザーを導入した。レーザー導入位置の逆端に光電子増倍管を置き、蝶タイ型キャビティからの透過パルス減衰時間を測定した。波長660 nmにおける減衰時間はおよそ30マイクロ秒であり、この値は凹面鏡反射率と光路長から導かれる理論値の半分程度であった。この原因として、不十分なモードマッチングによるレーザー断面の広がりが考えられる。レーザー波長を640~660 nmの範囲で掃引して空気中水蒸気の倍音吸収を観測すると、先行研究で得られた吸収断面積を高精度に再現することに成功し、蝶タイ型キャビティによる分光測定の性能に問題のないことを確認した。 エレクトロスプレーイオン化法(以下ESI)により脱溶媒したシアニン系色素分子の吸収スペクトルの測定をキャビティリングダウン分光法により試みた。水・メタノール混合液体にシアニン色素を溶かしたものを試料溶液とした。ニードル先端から15 mm先に対向電極を設置し、ニードル-電極間に3~5 kVの電圧を印加して試料溶液を噴出した。このとき透過光の減衰時間を測定すると、波長依存性のない高速減衰が観測された。これは、粒径の大きい液滴による強い光散乱を示唆する。次に静電反発による脱溶媒効率を上げる目的で電圧を5~7 kVとすると、減衰時間は空キャビティのものと同等となった。630~670 nmでレーザー波長を掃引すると、660 nm付近に吸収を持つスペクトルが観測された。この吸収波長は溶液中のシアニン色素のものと全く同じであることから、ESIによる脱溶媒は完全には進行しておらず、粒径の小さい液滴中に色素分子が捕捉されている可能性が示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ESI装置を用いた微小液滴の生成を安定的に行うことが、当初に想定していた以上に困難を極めた。これを打開するための方策を練るのにかなりの時間を費やすことになってしまった。また、キャビティリングダウン分光の実験を真空中ではなく大気中で行っているため、光吸収測定が実験室内の湿度に大きく左右されてしまうことが判明した。以上の二つの問題点に気づくのにある程度の時間を有してしまったため、当初の研究計画にあった蝶タイ型キャビティへの円偏光レーザーの導入にまでは至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
1.円偏光パルス色素レーザーを蝶タイ型キャビティに導入する。本実験配置でキラル分子の円偏光二色性を精度よく測定するには、蝶タイ型キャビティの中心(長方形の対角線交差点)における円偏光度が限りなく真円でなければならない。これを達成するために、偏光プリズムと波長板の設置方法や色素レーザーの空間フィルタリングなどの最適化を行う。また、対角線方向への斜め反射による円偏光度の歪みを楕円偏光度で数値化する方法を探り、レーザーの円偏光化技術をシステム化する。 2.ESIにより生成した液滴中のシアニン色素をキャビティ増強吸収分光で観測する。波長660 nmの連続発振型(CW)ダイオードレーザーを直線型キャビティに導入し、キャビティ透過光をフォトダイオードで検出する方法を探る。ESI試料溶液の濃度を変化させたときに観測される660 nmでの光吸収強度の変化を、CWレーザーによるキャビティ増強吸収とパルスレーザーによるキャビティリングダウンの双方で測定する。後者では吸収強度の絶対値を知ることができるので、このデータに基づいて増強吸収で得られる測定結果を対応させた補正曲線を作成する。 3.ESI装置の改良を行う。従来の手法では、試料溶液をニードルから噴出して10分ほどで脱溶媒した色素分子が対向電極に厚く蒸着する。その結果、ニードルとの間で電圧降下が生じてしまい、液滴の不安定供給につながることがわかった。この問題を打開するために、ESI測定を行っている間に常時洗浄可能な回転円板型対向電極を新たに考案作成し、長時間安定に動作するESI装置へと最適化する。
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次年度使用額が生じた理由 |
レーザーの円偏光化を行うための光学素子(波長板と偏光プリズム)の購入を予定していたが、研究実施状況が多少遅れたため、次年度に持ち越すこととした。
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次年度使用額の使用計画 |
光学素子の購入に充てる。
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