研究課題/領域番号 |
26410023
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
坂本 章 青山学院大学, 理工学部, 教授 (90262146)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 分子分光 / 電子-分子振動相互作用 / 振動励起 / 電荷移動 / 赤外分光 |
研究実績の概要 |
本研究の1つめの目的は,巨大な強度をもつ分子間での電荷移動を誘起する分子振動モードを特定し,これをモード選択的にピコ秒パルス赤外光で励起することで,共役分子間での電荷移動の誘起と制御を行うことである.紫外光や可視光で電子状態を直接変化させることなく,赤外光で“分子振動を介して”電荷移動を誘起するという本研究の発想は,赤外光によるモード選択的な電子状態の制御ということができ,完全に新しい概念である.本研究の2つめの目的は,1つめの研究で明らかにした電荷移動に有効な振動モードを基礎にして,実在の共役高分子とその有機電子デバイスを対象に,赤外光で電荷移動を誘起することで,これらの物質の性能の向上を実証することである. 初年度の平成26年度には,上記の1つめの目的を念頭に,(1) 共役ラジカルイオン二量体分子系を対象に,分子間での電荷移動を誘起する振動モードの特定と,(2) これをモード選択的に励起するためのピコ秒パルス赤外光の発生を行った.以下に,それぞれの具体的な研究結果を述べる. (1) 共役ラジカルイオン二量体における分子間電荷移動を誘起する振動モードの特定と解析 2,5''-ビス(メチルチオ)テルチオフェン(オリゴチオフェン類の一種)のラジカルカチオン(単量体),ラジカルカチオン二量体,ジカチオンを対象として,赤外吸収スペクトルの測定と解析を行った.測定した赤外吸収スペクトルを密度汎関数法計算を用いて解析し,“分子間での電荷移動”を誘起する振動モードの特定を行った. (2) モード選択的赤外励起のためのピコ秒パルス赤外光の発生 ピコ秒チタン・サファイア再生増幅器とピコ秒光パラメトリック発生・増幅器を用いて,狭帯域化されたピコ秒パルス赤外光(スペクトル幅:約15 cm-1)を発生させた.今後,“分子間での電荷移動”を誘起する振動モードのモード選択的な励起に使用する予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「9. 研究実績の概要」に記述したように,平成26年度に実施する予定だった1つめの目的に関連する2つの研究計画は,ともに実施した.したがって,本研究はおおむね順調に進展していると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度以降には,以下のような研究を実施する予定である. (1) 分子間での電荷移動を誘起する振動モードをモード選択的にピコ秒パルス赤外光で励起することで,2つのラジカルイオンの間での電荷移動の誘起と制御を行う.(2) パルス赤外光で誘起した電荷移動をピコ秒時間分解分光測定によっても追跡し,振動励起するモードごとに電荷移動の効率とダイナミクスの違いを解明する.また,(3) 実在する共役π電子系高分子とそのモデル分子系について,分子間での電荷移動を誘起する振動モードの特定と解析を詳細に行い,(4) モデル分子系で明らかにした電荷移動に有効な振動モードを基礎にして,電荷の移動が機能発現に直結している実在の共役π電子系高分子とその有機高分子FET素子における性能の向上を検証する.
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次年度使用額が生じた理由 |
CaF2製の特殊な赤外セルを購入する予定だったが,材質の再検討を行っていたところ,納期の問題で平成26年度中の導入が間に合わなくなったため.
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次年度使用額の使用計画 |
早急に赤外セルの材質(CaF2またはBaF2)を決定し,平成27年度の早い時期に発注する予定である.
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