研究課題/領域番号 |
26410025
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研究機関 | 新潟薬科大学 |
研究代表者 |
星名 賢之助 新潟薬科大学, 薬学部, 教授 (60292827)
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研究分担者 |
城田 起郎 新潟薬科大学, 薬学部, 助手 (20714900)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 放電ジェット / フェムト秒レーザー / イオン化 / 飛行時間型質量分析法 / ジアセチレン / 炭素鎖 / 炭素クラスター / 量子化学計算 |
研究実績の概要 |
平成26年度は,放電ジェット生成物のフェムト秒レーザーイオン化質量分析システムの構築と評価を行った.パルス放電ノズルと飛行時間(TOF)型質量分析装置を組み合わせた実験システムを動作させた.炭素鎖の伸長に極めて有効なジアセチレン(C4H2)を放電試料とし,放電ジェット法で可能な生成分子種をサーベイした.化学的に不安定なジアセチレンは,申請者の実験室にて1,4-ジクロロ2ブチン(ClCH2C≡CCH2Cl)の脱HClにより合成し液体窒素温度で保存した.ジアセチレンをパルスバルブにより繰り返し10Hzで真空チェンバー内に噴出し,ノズル先端に設置した放電電極にノズルと同期させた800Vの高電圧パルスを印加し,試料を放電させた.放電生成物を含んだ分子線に近赤外フェムト秒レーザー(800 nm,100 fs)を集光し,生成したイオン種をTOFスペクトルとして検出した. スペクトルには,CnHm+で表される炭素鎖を含んだ分子種系列が,n=2~n=30まで観測された.CnHm+系列に見られる特徴は次の3点にまとめられる.(ⅰ)n=11までは,CnH+, CnH2+, CnH3+が強く観測された.これは,ジアセチレンやアセチレンの放電ですでに報告されている結果と同じである.(ⅱ)n=12からは,それまで観測されなかったm=6の分子種,C12H6+,C14H6+,C16H6+が強く観測され始めた.C12H6+はジアセチレンの環状三量体であると推測される.実際に,量子化学計算でも安定構造であることが分かった.同様に,n=16においてm=8が初めて強く観測され,これはジアセチレン四量体と考えられる.(ⅲ)n=14以降,nが奇数の場合は,m =5,7, nが偶数の場合は,m = 6, 8が強く観測される規則性が見られた.(ⅱ)(ⅲ)における観測結果は,本研究による新しい知見である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度の研究目的は,フェムト秒レーザーの非破壊的イオン化特性を用いて,放電ジェット中の中性分子種を網羅的に検出することの可能性を評価することである.すでに,アセチレンの放電により生成したC6H2やC8H2などの比較的小さなサイズの炭素鎖分子のレーザーイオン化では,フェムト秒レーザーでは親イオンとして検出できるが,汎用されているナノ秒レーザーでは断片化が優先され,ほとんど親イオンが観測されないことがこれまでの研究代表者の研究から示されている.そこで,このようなフェムト秒レーザーイオン化の有効性が,さらに大きなサイズの分子にも適用できるかを実証したのが,平成26年度のジアセチレン放電の研究成果である.ジアセチレンの三量体や四量体の検出や,CnHm+に見られたnの偶奇に対するmの規則性は新しい知見であり,研究目的はおおむね達成したといえる.実施計画に記した装置改良や色素レーザーの導入を含む装置整備については,来年度の課題とする.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,以下の2点を柱として研究を推進する.(ⅰ)平成26年度の成果であるジアセチレンの放電生成物の新たな知見を受けて,質量スペクトルに検出された分子種を特定することを目標とする.実験的には,炭素数が12程度を超える大きな分子系の構造を分光学的に決定するのは困難であると考えられる.そこで,ジアセチレン試料に硫黄原子および窒素原子ソースとしてCS2,HCNを加え,スペクトルパターンの変化を調べる.一方,理論的にはGaussian09を用いた量子化学計算によりCnHmおよびCnHmS, CnHmNの最安定構造をサーベイする.実験,理論両面から,ジアセチレン放電ジェットで生成する炭素鎖分子の構造決定を試みる.また,放電ジェット中のイオン種の検出をパルス引き出しにより行い,イオン種分布CnHm+を調べる.このデータは一価イオンCnHm+の分布に対応し,前述の中性種のフェムト秒レーザーイオン化とともに,ジアセチレン放電ジェットにおける炭素鎖成長過程を明らかにするための相補的役割をもつ.(ⅱ)パルス引き出しのシステムを用いて,イオン種を始状態としたフェムト秒レーザーイオン化実験を行う.放電ジェット中にはレーザーによるイオン化を行う以前に,すでにイオン種が多く存在している.幾何構造,電子構造が中性種とは異なるこれらのイオン種において,フェムト秒強レーザー場による新たな知見を得ることを目標としする.ターゲットとしては,2原子分子,3原子分子,などの小さなサイズの分子系,および,ベンゼンなどの有機系分子を用いて,実験計画を推進する.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額(\6940)は,端数として生じた予算残高である,
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度請求した助成金と併せて,消耗品および旅費として使用する.
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