研究課題/領域番号 |
26410025
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研究機関 | 新潟薬科大学 |
研究代表者 |
星名 賢之助 新潟薬科大学, 薬学部, 教授 (60292827)
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研究分担者 |
城田 起郎 新潟薬科大学, 薬学部, 助手 (20714900)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 放電ジェット法 / フェムト秒レーザー / 光イオン化 / 飛行時間型質量分析 / 量子化学計算 / 炭素鎖分子 |
研究実績の概要 |
平成27年度は,パルス放電ジェット法とフェムト秒レーザーイオン化を組み合わせたシステムにより,特にベンゼン環をもつ有機化合物とアセチレンの放電により生成する分子種を対象に,その分子種の特定を行い,以下の知見が得られた. ① ベンゼン/アセチレン系:アセチレンの放電により炭素鎖が伸長する結果を受けて,末端にベンゼンが結合した炭素鎖分子の生成とその同定を試みた.C6H6/C2H2系で測定したスペクトルには,ベンゼン環から炭素鎖が伸長した,Ph-CnHm+(nmax=10)に帰属される分子種が観測された.C6D6/C2H2系を用いた測定結果と併せて分子種の帰属を行うことにより,Ph-HへのC原子挿入によりPh-CあるいはPh-CHが生成され,そこから炭素鎖の伸長が始まることが分かった.炭素鎖が伸長した分子種にはnの偶奇依存性があり,nが奇数ではPh-C3H2+,Ph-C5H2+のようなmが偶数の分子種が強く観測され,逆にnが偶数ではPh-C2H+,Ph-C4H3+,Ph-C6H3+のようなmが奇数の分子種が強く観測された.②フェニルアセチレン(Ph-C≡CH)/アセチレン系およびトルエン(Ph-CH3)/アセチレン系:ベンゼンよりも効率よく炭素鎖を伸長させることを目指し,ベンゼン環の1置換基体であるPh-C≡CHおよびPh-CH3とアセチレンの混合気体の放電実験を行った.測定結果は,炭素鎖の伸長が促進されるものではなく,ともに置換基のH部位はそのまま保存され,それ以外の部位よりベンゼンの場合と同様な炭素鎖伸長が始まることが分かった. 以上の結果から,ベンゼン環を含む化合物とアセチレンの放電におけるPh-CnHmの成長は,主にアセチレンの分解により生成した炭素原子あるいは炭化水素の活性断片が,ベンゼン環の炭素原子と反応することにより開始されることを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成27年度は,放電により生成したイオン種をターゲットとした研究を主たる計画とした.具体的には,放電ジェットで生成したイオン種を分子線として質量分析装置のレーザー相互作用領域に導入し,フェムト秒レーザー照射によるイオン化・解離ののち,高速パルス電場によりイオン引き出しを行う,という測定法の確立である.試験的な実験を行った結果,いくつか問題点が生じ,改善策を検討した.まず,(1)パルス放電で生成したイオン種が,パルス引出部のバイアス電圧(+1670 V)により相互作用部に侵入できない,という問題が生じた.これについては,6kVまで立ち上がり数十ナノ秒でスイッチング可能な回路を製作することにより解決した.次に,(2)アセチレンおよび空気のパルス放電ジェットをレーザー相互作用領域に導入し,レーザー照射をせずにパルス引き出しを行い,質量スペクトルを測定した.これにより,放電のみで生成するイオン種の特定を試みた.得られた質量スペクトルは,原子イオンが特定できる程度のブロードなスペクトルとなり,分子イオンをターゲットとするには不十分であった.要因は,イオン種の空間電荷効果や装置内におけるわずかな不均一電場により,引き出し電場が印加されるタイミングにおいてすでにイオンが広がってしまっているためと考えられる.すなわち,イオン生成とレーザー相互作用領域が離れていることは,イオン種へのレーザー照射という観点から得策ではない.イオンレンズをもちいて収束させたとしても,その後飛行時間型質量分析で検出することを考慮すると,再度広がることが予想される.そこで,放電ジェット法は,炭素鎖分子などの中性活性種の生成法として主に用いることとし,本申請で目標としているレーザー照射のターゲットとなるイオン種は,真空紫外光を用いて生成する手法に転換することとした.
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は,27年度の結果を受けて,次の2つを推進する予定である. (1)炭素鎖成長に関する研究:26年度,27年度において検出した炭素鎖分子CnHm+,およびベンゼン環から炭素鎖成長したPh-CnHm+について,構造を決定するための実験・計算を行う.炭素鎖分子CnHm+では,n = 30程度までの分子種が観測されているが,その大部分は構造が明らかとなっていない.また,Ph-CnHm+については,炭素鎖骨格に加え,ベンゼン環の複数個所から炭素鎖が伸長している可能性がある.これらの分子種は,本研究において初めて存在が明らかになるものが含まれているはずであり,その構造決定を最優先に行う必要がある.アプローチとしては,まず量子化学計算により安定構造をサーベイする方法を採る.計算方法は,十分な精度でかつ短時間で計算できる密度汎関数法をもちいる.炭素鎖には,直鎖と枝鎖の両方の可能性があり,n が小さい方から大きい方へ段階的に計算していくことにより,連続性のある炭素鎖成長経路を見出すことを目標とする.一方,実験的には,現在のフェムト秒レーザーイオン化に加え,相補的なデータとして,真空紫外光を光源として用いることにより,断片化をさらに抑えたイオン化検出した質量スペクトルを測定する. (2)イオン種を調べるための方策:27年度に問題が明らかとなったイオン種の分子線の取り扱いについて,その広がりを抑える工夫として,放電ジェット法によるイオン生成法から,真空紫外光によるイオン生成法に変更する.パルス電場を工夫することにより,真空紫外光により生成したイオン種のみを,空間的に広がる前にフェムト秒レーザー照射できるシステムにする.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額(¥8425)は,端数として生じた予算残高である.
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度請求した助成金と併せて,消耗品および旅費として使用する.
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