研究実績の概要 |
平成28年度は,2つのテーマに取り組み以下の結果を得た. (1)レーザー蒸発柱内の分子種検出へのフェムト秒レーザーイオン化法の適用:放電生成物の近赤外フェムト秒(fs)レーザーによる炭素鎖分子探査において,その非破壊的イオン化能が示された.それをマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)法に適用した研究を行った.汎用されているMALDI試薬であるDHB(2,5-Dihydroxybenzoic Acid)と対象試料であるアミノ酸(alanine, phenylalanine)の混合結晶に紫外レーザーを照射し,生じるレーザー蒸発柱にfsレーザーを集光した.その結果,中性種を網羅的にイオン化することができ,蒸発柱における中性分子種比が実験的に初めて明らかとなった.これまで不確定パラメータであった中性分子種比の情報が加わり,MALDIにおける試料イオン種の生成機構と定量的評価に関する理解を進める成果となった. (2)真空紫外レーザー光発生装置の設計・製作:これまでの研究において,放電生成物の近赤外fsレーザーイオン化スペクトルでは,炭素鎖が伸長した分子種の親イオン信号が観測された.しかしながら,フラグメントイオンに相当する線幅が広がった信号も多く見られた.すなわち,レーザーイオン化に伴う断片化により,未検出な不安定な分子種が未だ多く帰属されずにある.そこで,イオン化手法としてより断片化を抑制できる,真空紫外(VUV)一光子ソフトイオン化と併用した放電生成分子種探査の装置整備に着手した.VUV発生は,YAGレーザー(355 nm)を希ガス(Xe+Ar)中の非線形効果により118 nmに変換する方法を用いる.VUV発生用の希ガスセルを設計・製作し,稼働している放電ジェット飛行時間型質量分析システムに接続する段階まで進めた.
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