研究課題/領域番号 |
26410026
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研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
福田 良一 分子科学研究所, 理論・計算分子科学研究領域, 助教 (40397592)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 電子状態理論 / 励起状態 |
研究実績の概要 |
1. 大規模超分子のためのSAC-CI 法の開発 SAC-CI法は、クラスター展開に基づいた電子状態理論で、分子系の基底・励起状態等の多様な電子状態を統一的に記述でき、その特徴として、系の大きさに対する無矛盾性がある。これは、計算精度が系の大きさに依らず一定に保たれる事を保証し、分子集合体などを対象とする場合、本質的に重要である。こうした性質とは別に、SAC-CI計算を大規模な系に適用するため、本年度は、波動関数を記述する励起演算子の次元を減らすための摂動選択法に局在化軌道を合わせて用いる方法を開発した。この局在化軌道を用いた摂動選択によるSAC-CI法の計算効率、近似精度、大きさに対する無矛盾性に対する影響を多様な分子系(ポルフィリン等のヘテロ多環分子、核酸、アミノ酸、多環芳香族、有機金属、最大1億1000万次元の計算)を対象に検証した。局在化軌道と摂動選択の組み合わせで、大きさに対する無矛盾性を崩す事無く、計算コストを10分の1に減らすことに成功した。光合成系のクロロフィル多量体のような系の計算が、大きさに対する無矛盾性を保ったまま、現実的な計算コストで可能であることが実証的に示された。 2. 電子励起を解析する方法の開発 電子励起は有軌道間の電子遷移で議論される事が多いが、実際には多数の軌道が関与し、また、私は、巨大系に局在化軌道を用いるため、軌道エネルギー描像が崩れてしまう。そこで、軌道によらずに電子励起を特徴づけるため、基底・励起状態間の差電子密度を用いた指標を開発し、特に電子移動励起の解析に適用した。この電子移動指標を用いると、電子移動の距離を半定量的に求めることができ、電子移動の位置に関する情報も併せ持つため、双極子モーメントよりもより詳細に電子励起を解析することができる。光合成系のような複雑なプロセスを議論できる新たな指標となることが期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、1) 光合成系のような色素の集合体を計算するための理論の開発と、2) そうした複雑な系の電子励起を解析する方法の開発を計画していた。1) に関しては、局在化軌道と摂動選択を組み合わせることで、計算精度、特に大きさに対する無矛盾性を崩す事無く、色素集合体を計算する道筋を付ける事ができた。2) に関しては、差電子密度を用いた指標を導入することで、複雑なエネルギー・電子移動プロセスを解析する方法を提案することができた。以上2点の当初目的は達成されたため、研究は順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画どおり、本年度開発された方法を光合成系のモデルとなるクロロフィル多量体の計算に適用する。本年度の結果から、3色素程度の集合体であれば、問題なく計算が可能であると見込まれる。先ずは、エネルギー移動系(アンテナ系)のモデルの計算に取り掛かる。計算の経験を理論開発にフィードバックすることで、さらなる計算の加速、効率化を達成し、より大きなモデルである電子移動系(反応中心)の計算へと展開してゆく。
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次年度使用額が生じた理由 |
Intelの最新プロセッサー、Haswellを搭載したワークステーションの購入を予定していたが、最新プロセッサーの発表が予定より4か月ほど遅れ、そのため、個人向けのワークステーションに搭載されたモデルが出回り始めたのが2015年になってからであった。機種選定に十分時間をかけ、最良な計算機を導入するには、年度末のピーク時期を避け、余裕を持って対応することが適当と考えた。また、予定していた海外学会での講演が3月末であったため、該当旅費の支出が年度をまたぐ事になった。
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次年度使用額の使用計画 |
当初計画どおり、最新型のワークステーションの購入を計画している。新機種の発売予定を勘案しながら、できるだけ早い時期に導入する計画である。
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