研究課題
本研究は、薬剤開発の主要な効果の一つである酵素の機能阻害効果について、阻害分子の有無による酵素の光励起過程の変化を時間分解蛍光法により観測し、蛍光ダイナミクスと機能阻害効果の関連性、光による反応活性増大過程の詳細等を明らかにすることを目的とする。昨年度は、多くの脳疾患の要因の一つと考えられているd-アミノ酸酸化酵素(DAAO)の機能阻害効果について検討するため、ブタ腎臓由来のDAAOを用い、3-アミノ安息香酸ナトリウム(m-AB)、4-アミノ安息香酸、クロルプロマジンの3種の阻害分子を付加した際のフェムト秒時間分解蛍光計測を行った。その中でm-ABを添加した際に顕著な蛍光消光が見られ、その要因がDAAOの2量体とm-ABの錯体形成に起因するものであることが確認された。またm-ABの添加濃度に対する蛍光ダイナミクスの変化を計測し、m-ABと錯体を形成しない残留2量体の2種の励起寿命の存在比を比較したところ、存在比は添加濃度に関わらずほぼ1:1を保持した。DAAO2量体は構造が異なる2種の構造異性体(サブユニット)により形成される可能性が高いが、この結果はm-ABのDAAOの各サブユニットへの錯体形成反応率が同等であることを示しており、サブユニットとの錯体形成に選択性を持つ3-アミノ安息香酸ナトリウム(o-AB)添加時の結果とは異なることがわかった。2種のサブユニット間の違いは蛋白構造の変化のみであるため、反応選択性の変化には阻害分子の構造因子が関与している可能性が高い。またセリンヒドロキシ転移酵素の阻害効果に関連して、補欠分子ピリドキサールリン酸(PLP)とそのバリン-シッフ塩基のフェムト秒蛍光計測、およびそれらの互変異性体を含めたMD、MOによるエネルギー計算を行い、その光励起過程を明らかにした。
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Computational and Theoretical Chemistry
巻: 1108 ページ: 1-9
doi.org/10.1016/j.comptc.2017.03.005