研究課題/領域番号 |
26410030
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
宋 鍾元 国立研究開発法人理化学研究所, 計算科学研究機構, 客員主管研究員 (70612167)
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研究分担者 |
川島 雪生 国立研究開発法人理化学研究所, 計算科学研究機構, 研究員 (90452739)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | Order-N化 / リニアスケーリング / バンド計算 / 吸着エネルギー / バンドエンジニアリング / PBC / TD-DFT |
研究実績の概要 |
固体表面上分子の電子励起状態を取り扱うためには孤立分子と周期系の双方の電子状態を正確に記述する必要がある。また、本研究で開発する固体表面上分子の時間依存性長距離補正密度汎関数法の計算を行うためには、計算コストが高い長距離Hartree-Fock(HF)交換積分を高速に計算するためのOrder-N化したリニアスケーリング手法の導入が必要不可欠である。 まず、周期系の電子状態計算を高速化させるために、研究代表者が提案したガウス関数のHF交換積分演算子を用いた短距離HF交換積分のハイブリット密度汎関数法(Gau-PBE法)の積分スクリーニング法(Gaussian Multipole積分法)を開発した。周期系の半導体などのエネルギーやバンドの計算の計算時間を大幅に削減することができた。 また、長距離補正密度汎関数法を周期系へ拡張させるべく、二つのガウス関数を用いたHF交換積分を取り入れたLC-wPBE(2Gau)法を開発した。この新しい汎関数は今年度開発した積分スクリーニング法を導入することにより、既存のLC-wPBE法のHOMO、LUMOなどの軌道エネルギーや熱化学的物性などの実験に対する高精度の再現性を保ちつつ、計算時間を劇的に削減することに成功した。周期系のダイアモンドの計算では、LC-wPBE(2Gau)法はLC-wPBE法より20倍近くも早く計算することが可能である。 LC-wPBE(2Gau)法の孤立分子と周期系の双方を含む分子系の基底状態計算の精度を検証するために、孤立分子(CO)が周期系金属表面上(Cu111表面)に吸着する分子系へと適用した。その結果、格子定数、吸着エネルギーや表面エネルギーなどいずれも実験結果を高精度に再現することに成功した。開発した方法は孤立分子と周期系の双方を正確に取り扱えることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
固体表面上分子の基底状態や励起状態の計算を実現するためには、固体のような周期系と孤立分子双方の電子状態を正確に記述する手法の開発が必要不可欠であった。また、固体計算には多くの計算時間を要するため、計算を高速化するためのアルゴリズムの開発ならびに高速計算プログラムの開発は急務である。今年度は、長距離補正密度汎関数法を用いた計算のボトルネックとなるHartree-Fock(HF)交換積分項の計算の大幅な加速化に成功した。懸案事項の一つを解決することができ、研究課題は順調に進んでいることは明らかである。 また、開発した高速化アルゴリズムを適用した新しい長距離補正密度汎関数法を開発した。この計算手法は、これまでの手法の計算コストを劇的に削減した上に、高い計算精度を得ることに成功した。そして、この手法をCu等の固体表面上分子(CO)の基底状態の計算に適用したところ、格子定数や表面エネルギー、吸着エネルギー等の計算結果は、今まで用いられている他の汎関数より高い精度を得ることができた。開発した方法は孤立分子と周期系の双方を正確に取り扱えることが明らかとなり、固体表面上分子の電子励起状態を取り扱う足がかりを確立できた。以上のことから、この研究課題が順調に進んでいることは間違いなく、今後は当初の研究計画以上の成果を得ることも期待出来る。
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今後の研究の推進方策 |
固体計算は孤立計算よりも計算時間を要するため、計算コストのさらなる削減が必要である。そこで、次年度は長距離密度汎関数のさらなる加速化を行い、Order-N化したリニアスケーリングの実現を目指す。この研究課題で開発したガウス関数の演算子を用いたHartree-Fock交換積分のスクリーニング法(Gaussian Multipole積分法)を現在よりさらに改善することにより、固体表面上分子の基底状態や励起状態の計算がより速くできるようにする。 また、今年度築いた足がかりを基に、固体表面上分子の励起状態の計算ができるように周期境界条件での時間依存性長距離補正密度汎関数法を開発する。また、開発した計算手法をGaussian09もしくはCrystal14に実装する。実装した新しい理論方法を用いて、固体表面上分子の励起状態への検証計算や適用計算を行う。 さらに、CP2kなどの固体表面や孤立分子系と周期系双方の混成系の分子動力シミュレーションに特化した量子化学ソフトに開発された新しい理論方法を実装し、新材料開発の応用計算を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
この課題の最初年度に計算機を購入する予定だったが、理研AICSの持ち込みサーバ室の事情により新しい計算機を入れる空間の確保ができなかったため、計算機購入を次年度に見送ることにした。
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次年度使用額の使用計画 |
計算機の最近の状況や機構の計算機室の空間や電源確保の状況を確認しながら、良いタイミングで状況に応じる計算機設備を購入する。
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