タンパク質と糖鎖の分子認識/相互作用は様々な生体機能の発現において重要であるが、複雑な糖鎖構造を認識するレクチンの分子メカニズム、そして糖鎖を基質として反応する酵素反応機構に関しては、分子レベルの理解で依然として不明な点が多々残されている。本課題ではタンパク質の糖鎖認識および酵素反応系を取り上げて、独自のQM/MM計算を基礎にした複合シミュレーション技術を適用し、弱い相互作用を基礎としたタンパク質の糖鎖認識、および酵素反応機構の分子メカニズムを解明することが目的である。
ノロウィルスキャプシドタンパク質の糖鎖認識機構の解析では、キャプシドタンパク質と Lewis b 型構造を持つ糖鎖との相互作用を1)タンパク質との相互作用、2)水との相互作用、の2点に分けて考察して、糖鎖認識を決定する主要なエネルギー成分を考察した。糖鎖結合状態を表す自由エネルギー面を導入することで、結合状態を自由エネルギー的に安定な構造集団群と定義し、分子構造のパラメータ、および自由エネルギー分割により解析することで、糖鎖認識はタンパク質表面での糖鎖とアミノ酸残基との弱い相互作用が基礎になっていることを計算から明らかにした。また糖鎖とタンパク質の相互作用以上に、糖鎖とタンパク質周囲の溶媒との相互作用が重要であることを示して、これがアミノ酸変異に伴った糖鎖との相互作用(親和性)変化に大きな差異を生み出すことを明らかにした。
キャプシドタンパク質と標的糖鎖のようにタンパク質表面でゆるく基質が結合する場合とは異なり、例えばバイオマス分解酵素が基質である糖鎖を結合した場合には、活性中心でのタンパク質-糖鎖の水素結合はその結合力も方向性も強く、糖骨格はかなり硬い構造に固定され、ゆらぎの程度も小さく、これが酵素の反応加速に重要であることを示唆する計算結果が得られた。
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