研究課題/領域番号 |
26410034
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
武田 貴志 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (80625038)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 酸化還元対 / キナクリドン / 動的平衡 / エレクトロクロミズム |
研究実績の概要 |
本研究はラジカル性を酸化還元によって調節できる系の創出とその光学的応用を目的としている。本年度はキナクリドン色素を基盤とした動的酸化還元対について検討した。 キナクリドンに電子授受能と溶解性を付与するためにジシアノメチレン基とアルキル基を導入した分子(1)を設計・合成した。1の単結晶X線構造解析の結果、この分子は大きく湾曲した構造をとることが確かめられた。これはジシアノメチレン基まわりの立体障害によると考えられる。分子1はその折れ曲がった構造と導入されている官能基により低い分子対称性を有している。このことにより溶液中における分子1の動的挙動を温度可変1H NMRスペクトル測定により観測することが可能となった。温度可変1H NMR測定とDFT計算の結果から、溶液中で観測された分子1の動的挙動は湾曲構造と椅子型構造間の平衡に帰属され、この平衡は非常に速い速度で起きていることが示唆された。分子1を還元すると平面性が高く、かつビラジカル性を有するジアニオン種へ誘導できると期待される。実際、分子1の定電流還元をUV-Visスペクトルで追跡すると、中性体からジアニオン種へと変換する様子が確かめられた。分子1は分子内双極子モーメントの存在に基づく二光子吸収活性を示した。分子1の部分構造を有する比較化合物と比較して大きな二光子吸収活性を有していたことから複雑な分子内双極子相互作用が二光子吸収活性の向上に寄与したと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
該当年度の研究計画の予定通り、本研究テーマのプロトタイプとなるキナクリドン型電子受容体の構造・電子的物性を明らかにできた。また、次年度以降の研究計画もすでに着手を始めており、おおむね順調に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
本年度検討したビラジカル性を有するジアニオン種は単離が困難であることから、安定に取り扱うことが可能なビラジカル性酸化還元対の探索を行う。来年度はビラジカル性を有するジカチオン種の合成を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度に低温恒温槽を導入予定であったが、設置場所の確保ができなかったため次年度に購入を延期した。このため次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
購入を延期した低温恒温槽を導入する経費として使用する予定である。
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