ヒドロシリル化反応のオリゴシラン鎖への適用はこれまで困難であった。ルイス酸触媒反応やラジカル反応によるものが知られているが、適用できる基質や選択性に限界があった。遷移金属触媒の適用が有用と考えられるが、これは一般にアルキンのビスシリル化反応として知られているように、ケイ素-ケイ素結合を切断する反応である。ヒドロシリル化反応によるオリゴシランの効率的な修飾反応の例はほとんど知られていなかった。 これまでの我々の研究では、適切な遷移金属触媒の利用によってケイ素-ケイ素結合を損なうことなくオリゴシランを修飾できることを見出している。今年度の研究では、ヒドロオリゴシランを用いたルテニウム触媒によるアルキンの位置、および立体選択的ヒドロシリル化反応を見出し、広範なアルキン、およびオリゴシランについて適用可能であることを明らかにした。 触媒としてRuHCl(CO)(PPh3)3を用いてヒドロジシランとアルキンとのヒドロシリル化反応を行った場合、対応する(E)-アルケニルジシランが生成した。一方、Cp*RuCl2を触媒に用いた場合には、α-アルケニルジシランが得られた。さらに、RuHCl(CO)(PPh3)(dppp)を触媒に用いると、対応する(Z)-アルケニルジシランが得られた。いずれの反応も、高い位置、および立体選択性で進行し、良好な収率でアルケニルジシランを与えた。さらに本反応は、種々の置換基を持ったトリシランにも適用でき、ケイ素-ケイ素結合を損なうことなく対応するアルケニルトリシランを与えた。 量論反応を行って反応機構の考察を行ったところ、ケイ素-ケイ素結合の切断を抑制するカギは、ルテニウム触媒がヒドロジシランよりも先にアルキンと反応することであった。また、Z-体を与えるルテニウムのdppp錯体の場合には、ルテニウムのビニリデン錯体を経由した反応で進行していることがわかった。
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