研究課題/領域番号 |
26410037
|
研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
坪内 彰 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (40272637)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | クロスカップリング / ケイ素化合物 / 触媒・化学プロセス / 有機銅化合物 / 環状シリカート / ジオール |
研究実績の概要 |
過年度、エチレングリコールを非フッ素系活性化剤として用いることで、有機シラン類と有機ハロゲン化物のクロスカップリング反応が銅(I)塩により促進されることを見出した。平成27年度は、この反応の基質適用範囲の拡張を検討した。 アリールおよびアルケニルジメリルシランと有機ハロゲン化物のクロスカップリング反応に於いて、エチレングリコールのモノリチウムアルコキシドを活性化剤に利用した場合は、ハロゲン化アリルやベンジルなどの高反応性有機ハロゲン化物しか利用できないといった制約があった。一方、予めエチレングルコール(2当量)、水素化ナトリウム(2当量)、ヨウ化銅(I)(1当量)から調製した有機銅試薬の存在下、アリールジメチルシランと塩化メタリルをDMF中25℃で2時間反応させると収率良くクロスカップリング体が得られることを明らかにした。反応条件を検討した結果、DMA中で塩基として水素化ナトリウムを用いた時、最も収率よくカップリングが進行することが明らかになった。sp3炭素求電子剤として、ハロゲン化アリルのみならずハロゲン化ベンジル、更には一級ヨウ化アルキル類とのクロスカップリングが行えることを明らかにし、CuI / HO(CH2)2ONa系が有機シラン類とsp3炭素求電子剤のクロスカップリングを効率よく促進できることを明らかにした。一方、2級ハロゲン化物との反応は進行しなかった。この活性化剤はアルケニルシランに対しても有効であり、この場合、炭素-炭素二重結合の立体化学を保持してカップリングが進行した。 反応の第一段階では、銅(I)塩の存在下、アルケニルシランがモノナトリウムアルコキシドによりアルコキシシランへ変換される。続いて、もう一方のアルコキシ基の分子内配位による環状シリカートの形成がケイ素―炭素結合を2重活性化することで銅(I)へのトランスメタル化を促進しているものと推定される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、In situ二重活性化法を利用した銅触媒によるシラン類とハロゲン化アルキル(sp3炭素求電子剤)のクロスカップリング反応の開発を目指した。 非フッ素系活性化剤として、様々な配位性官能基を分子内にもつアルコール の中からエチレングリコールに候補を絞り、諸種の金属アルコキシドに変換した後、銅(I)塩存在下、クロスカップリングを検討し、エチレングリコールのモノナトリウムアルコキシドが最も効率の良い活性化剤であることを明らかにした。このモノナトリウム化体とヨウ化銅(I)を組み合わせることで、従来クロスカップリングへの適用が困難であったアルケニル及びアリールジメチルシランをカップリングの求核成分として利用出来るようにした。更に、パラジウム触媒では困難であった低反応性の一級ハロゲン化アルキル (sp3炭素求電子剤)とのクロスカップリングを実現した。銅(I)塩の触媒化までには至らなかったものの、目的の主要部分であるフッ素イオン活性化に変わるIn situ二重活性化法による有機ケイ素化合物のクロスカップリング反応を実現でき、今後の反応の触媒化や反応基質の拡張への重要な足がかりを確立できた。
|
今後の研究の推進方策 |
平成27年度に確立したカップリング反応における求電子剤の適用範囲を拡張する。パラジウム触媒反応ではその利用が困難であった第一級ヨウ化アルキルを求電子剤として利用したカップリングを第二級ハロゲン化アルキルとの反応へ展開する。同時に、有機ハロゲン化物をヨウ化物から臭化物、塩化物へ拡張し、sp3炭素求電子剤に対する汎用性の高いカップリング反応を実現する。また、sp2炭素求電子剤としてハロゲン化アルケニルやアリールとの触媒的クロスカップリングを実現する。そのためにこれらの基質に対して酸化的付加の活性が高いパラジウムやニッケル等を共触媒として用いる。更に、求核剤としての有機ケイ素化合物の適用範囲の拡張を試み、 最終的には、sp2-sp3、sp2-sp2炭素間で自在にクロスカップリングが行える高い汎用性を備えた反応を開発する。銅(I)塩については、各種配位子を検討し触媒化を図る。
|
次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、研究室移動に伴う研究環境の再構築に予想外の時間を取られ、当初予定していた幾つかの実験計画を実施できなかったため「次年度使用額」が発生した。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度は当該研究費及び、翌年度以降に請求する研究費と合わせ、In situ二重活性化法による有機ケイ素化合物のクロスカップリング反応の適用範囲の拡大を図ると共に成果の発表を行う。 そのために,消耗品費として、出発物質の合成のために、各種有機化合物、合成試薬を購入する。反応溶媒、抽出溶媒、またクロマトグラフィーによる生成物の単離精製のために、諸種の有機溶媒を購入する。生成物の同定、構造解析で核磁気共鳴装置を使用する際に必要な重溶媒を必要に応じて購入する。出発物質の合成、各種反応を行うためのガラス器具、出発物質・反応生成物の単離精製のためのカラムおよび薄層クロマト用の吸着剤としてシリカゲルおよびアルミナゲルを購入するする。旅費として研究代表者および協力者が成果を学会で発表するために、出張経費(交通費・宿泊費)を使用する。構造決定にはNMRスペクトルを使用するため、装置の利用料を計上する。
|