本年度は、シクロパラフェニレン(CPP)の合成化学のさらなる進展や、それらの分子を材料科学へ利用することを見据え、種々のCPP誘導体の合成について検討を行った。前年度までに、我々は、CPPの実用的な合成法の開発を行い、市販の試薬から短工程で環サイズの異なるCPPをグラム量で合成することに成功している。そこで、入手容易となったCPPを出発基質とした官能基化について検討を行った。例えば、求電子反応を例にとり、CPPと臭素との反応について検討を行った。その結果、環サイズが8より小さなCPPにおいて、置換反応の代わりに、CPPの2つのベンゼン環上で付加反応が起きることを明らかにした。さらに、理論計算より、本反応の進行が、CPPの歪みの解消による発熱性と、CPP上のベンゼン環が芳香族性を失う吸熱性のバランスで決まっていることを明らかにした。また、生成する臭素付加物を、炭素、ヘテロ元素置換基を持つ単置換CPP誘導体のみならず、多置換CPP誘導体へ変換出来ることも明らかにした。今後、CPPの官能基化により、新しい環状π共役分子の合成が可能となると期待される。
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