目的分子である含ケイ素デヒドロアヌレンの基本部分構造となる環状Z型ジシレン(ケイ素間二重結合化合物)の構築を指向して種々の検討を行った。前年度までにジシレン部位の構築法として同一分子内に二つのジハロシラン部位を持つ化合物の還元および同様に二つのトリシラン部位を持つ化合物からの光反応によるジシラン脱離法を検討した。前者ではケイ素上に修飾可能な水素置換基を有する含ジシラン10員環の合成・単離に成功し、その構造・性質を明らかにしたものの、多量体形成のためにその収率は低く、さらなる誘導化が困難であった。後者では期待に反して、ジシランの脱離ではなく、エチニルシランの脱離反応が進行し、目的とするジシレンには至らないことが判明した。そこで本年度は、最終段階でのケイ素ーケイ素間結合形成ではなく、合成の初期段階でケイ素ーケイ素間単結合を導入する方法に変更し検討を行った。モデル化合物の前駆体となるエチニルジハロシジランを合成単離することに成功し、その還元によるエチニルジシレンの発生を検討したが、その明確な発生を確認することはできなかった。反応条件、置換基(脱離基、保護基)の選定が重要であると考えている。 一方で、既に合成に成功しているトリメチルシリルエチニル置換E型ジシレンから誘導したエチニルジシレンにおいてエチニルシリレンへの解離を示唆する結果を得た。この知見はエチニルケイ素ユニットを組み込んだ骨格合成に有効であると考えており、引き続き検証を行う予定である。
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