芳香族を有する生理活性物質や機能性材料は多く,多置換芳香族化合物を自在に合成する手法の開発は重要である。置換芳香族合成において,求電子置換反応は最も有用な手法であるが,導入できる置換基の種類や位置に制限がある。本研究は,ジアゾナフトキノン(DNQ)の特徴を生かした革新的な置換芳香族の合成法の開発を目的とする。DNQはフォトレジストとして工業的に利用されているものの,一般的な合成法がなく有機合成反応開発への利用はほとんどない。最近申請者らは,簡便で収率の良いDNQ合成法を開発しており,本研究では,1)DNQの特性を生かした多置換芳香族合成法の開発,2)開発した反応の有効性を複雑な生理活性物質の合成を通じての実証,を行う。このように本研究は,「ジアゾキノンの合成・反応開発→有用物質合成への展開」のプロセスを実践し,ジアゾナフトキノンを中心とする新しい合成化学を開拓するものである。 アルキンとハロゲン化アリールとのCu塩存在下のPd触媒クロスカップリングは薗頭反応として知られているが,ハロフェノール類とのカップリングは通常進行せず,一般的には,フェノール部が保護された基質を用いて反応が行われる。そこで,各種パラジウム触媒を用いて,ジアゾナフトキノンとアルキン類とのカップリングを試みたところ,カップリング体や環化体を選択的に得る手法を開発した。すなわちDNQに対して,Pd触媒を用いアルキニルスズを作用させるとカップリング体が,一方,Cu塩存在下,Pd触媒を反応させるとナフトフラン誘導体が一段階で得られることを見出した。いずれもハロナフトール自身では進行しない反応であり,DNQの特性を生かした反応である。さらに後者のナフトフラン合成反応を鍵として,天然物Furomolluginの合成にも成功した。
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