アルケンのビシナル官能基化反応は、隣り合う炭素に二種類の官能基を導入出来るため、合成的に有用な化学変換反応である。特に超原子価ヨウ素を用いると酸素、窒素、ハロゲンなど様々な官能基を導入可能である。金属を用いない反応系であるとともに、キラリ超原子価ヨウ素を用いて高度なエナンチオ選択性を発現することも可能になってきた。その際、研究代表者が開発した乳酸を不斉源にもつキラル超原子価ヨウ素は、幅広い種類の変換反応において、高いエナンチオ選択性を発現できるため、多くの研究グループによって利用されている。これまでは、酸素、窒素ハロゲンなどのヘテロ求核種を用いた例が、ほとんどであった。炭素求核種を導入できれば、炭素-素結合生成によって、より複雑な炭素骨格をもつ生成物を合成できる。超原子価ヨウ素を用いて、エナンチオ選択選択的な炭素-素結合生成反応の開発を目指して、研究を行ったところ、6-フェニル-1-オキシ-3-ヘキセンを用いると、効率よく酸化的環化反応が進行し、ヘキサヒドロナフトフラン生成物が得られた。特に、オキシ基としてシリルオキシ基を用いると、エナンチオ選択性が向上し、90%を超えるエナンチオマー過剰率を持った生成物を得た。また、対応するスルホンアミド基質を用いると、アミノアリール化反応が進行し、ヘキサヒドロベンズインドールが得られた。これは、ドーパミン受容体に対する特異的な活性を持つ化合物の部分骨格となる。
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