研究課題/領域番号 |
26410058
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
鈴木 教之 上智大学, 理工学部, 教授 (90241231)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ジルコニウム / チタン / 環上アレン / アルキルシリル基 / ピロール |
研究実績の概要 |
一般に、環状のアレン化合物は不安定であることが知られており、その単離・構造決定の例はなかった。近年我々は、遷移金属を含む五員環アレン化合物が安定に存在し得ることを見出し、これまでジルコニウム錯体の構造を報告した。また窒素原子や硫黄原子を含む五員環アレンが安定に合成できることも見出した。また、これまでジルコニウムとハフニウムでの例がありながら同じ4族金属で報告例のなかったチタンについてもその錯体を見出し、分子構造を決定することに成功した。平成27年度は、改めて4炭素部位からなる五員環アレンに注目し、原料となる1,3-エンイン上の置換基効果について検討した。これまで1,4-位に置換基を持つ共役エンインでは収率良く五員環アレンを合成することが困難だったが、トリアルキルシリル基をもつ基質において高収率で生成することを見出した。また過剰の金属種との反応ではエンイン部位の単結合が容易に活性化され二核錯体を与えた。X線結晶構造解析によって、これらの化合物の構造を明らかにした。またチタン錯体の合成と構造決定にも成功したが錯体が不安定であるため完全な同定には至っていない。さらに、ジルコニウム錯体においてケトンやニトリルへの求核付加反応を検討したところ、予想に反してエンイン上の置換基の位置によって異なる生成物が得られることがわかった。ケトンとの反応においては、加水分解後の生成物がアレン部位を含むβ―シリルアルコールであり、これは1,3-二置換エンインを出発原料とした場合の生成物とは異性体の関係にある。通常β―シリルアルコールはPetersenオレフィン化を容易に起こし対応するアルケンを与えるが、この化合物は異なる脱シリル化により共役エンインをもつアルコールを与えるという特異な反応性を示した。また、五員環アレンとニトリルとの反応においてはピロール化合物を良好な収率で与えることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
種々の新たな環状アレンの合成に成功しており、その構造決定もできている。とくに、配位性原子であるイオウと窒素を含む五員環アレン化合物に加えて、1,4-二置換の五員環アレン化合物を収率よく合成できるようになったことは、次の段階として種々の他金属との錯体形成反応において有望な結果である。また、これまであまり検討されてこなかった嵩高いケイ素置換基の求核付加反応においても様々な有機化合物の合成が可能であることがわかってきたので、この化合物群を利用した高付加価値化合物の合成や不安定化学種の安定化に展開できる可能性が高まったと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
現在、4族遷移金属に続いて5族、6族の遷移金属についても錯体の合成を展開している。これまで環状アルキン、環状アレンでは4族金属以外での合成例が全くない。5,6族でも安定になり得ることを示せれば、その安定化効果の要因がどこにあるのか、明らかになると期待される。また錯体上の炭素による求核的な反応を用いて炭素-炭素結合反応をともなうジシリルアレニルアルコールの合成とその興味深い反応性について、さらなる検討を行う。さらに、カルベン等価種との反応を試み、不飽和炭化水素がどのような反応性を示すか、他の遷移金属や典型元素との金属交換反応を含めて多様な変換反応を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度においては、国際会議において成果発表を積極的におこなった結果、旅費の支出が予定より超過した分、実験に用いる薬品をやや節約するために実験スケールを従来より小さくした。このため購入した薬品や器具が減り結果として物品費が抑制された。
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次年度使用額の使用計画 |
反応スケールを小さくして物品費を抑えることが出来たが、しかしながら小スケールでの実験は再現性に乏しいという欠点があった。次年度においては従来スケールに戻してさらに反応の再現性を高めた検討を行う予定である。その主な使途は有機試薬及び有機金属試薬、ならびに実験用ガラス器具である。従来より気密性の高い不活性雰囲気下での反応装置を設えて不安定な有機金属化合物の合成に挑む。
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