研究実績の概要 |
一般に、環状のアレン化合物は不安定であることが知られており、その単離・構造決定の例はなかった。近年我々は、遷移金属を含む五員環アレン化合物が安定に存在し得ることを見出し、これまでジルコニウム錯体の構造を報告した。また窒素原子や硫黄原子を含む五員環アレンが安定に合成できることも見出した。また、これまでジルコニウムとハフニウムでの例がありながら同じ4族金属で報告例のなかったチタンについてもその錯体を見出し、分子構造を決定することに成功した。平成28年度は、五員環アレンの求核的反応性に着目し、原料となる1,3-エンインの1位と4位にそれぞれ異なる反応で炭素ー炭素結合生成を実施できる反応について検討した。すなわち生成する環状アレン錯体の金属-炭素結合のうち、sp3炭素側へカルボニル化合物が挿入し、そののちsp2炭素が銅塩へトランスメタル化することによりアリル化、ベンジル化することを見出した。このとき生成物としてアルキン化合物とアレン化合物とが得られるがアルキンが優先的に生成することがわかった。さらに、従来メタロセン錯体でのみ確認されていた環状アレン錯体について、チタンアルコキシドを出発として同様の錯体と思われる中間体を経てカルボニル化合物への求核付加が進行することを見出した。かつて佐藤らが報告した反応を補完するものであり、これらもまた五員環アレン化合物を生成したと考えられるが、分子構造を完全に同定するには至っておらず、今後の課題となる。 また、環状アレン錯体をあたえるジルコノセン還元種として従来、所謂根岸試薬、ジブチルジルコノセンが用いられてきたが、二座ホスフィン配位子で安定化された二価ジルコノセンが含窒素、含イオウ五員環アレンの出発物質として有効であることを見出した。しかしながら炭素のみの共役エンインとの置換反応はまだ見出しておらず、より広い応用が望まれる。
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