研究課題
本研究ではスピンクロスオーバーや電荷移動誘起スピン転移を示す金属錯体と、球状骨格をもつ固体分子ローターを複合化することにより、固体内分子運動の励起による錯体の電子状態の制御を目的として以下の研究を行った。a)モデル錯体として、シンプルな金属イオンに球状骨格をもつローター配位子(キヌクリジン)が直接配位した錯体を合成し、その固体内分子運動について検討を行った。また同時に、球状配位子のアンモニウム塩(キヌクリジウムイオン)をカウンターイオンにもつ金属錯体についても検討を行った。その結果、中性錯体である前者はキヌクリジン単体よりも低い温度で固体内回転運動が励起されたのに対し、イオン結晶である後者では高温でも回転運動は励起されなかった。また分子ローターを塩素化することで極性を付加した錯体についても検討を行ったが、回転運動は全く励起されなかった。以上の結果について学会発表を行ったほか、現在投稿論文の準備中である。b)検討(a)の結果をもとに、原子価互変位性を示すコバルト2価中性錯体に対して分子ローター配位子の導入を試みたところ、常温で回転運動が励起された錯体の合成に成功し、また関連する分子ローターをもつ多核錯体を得た。研究期間内に十分な純度をもつサンプルを得ることはできなかったが、原子価互変位性錯体と分子ローターの複合化に関して基盤となる研究成果を得たため、最終年度に導入したグローブボックスを活用して検討を継続する予定である。c) 既報のスピンクロスオーバー錯体のカウンター交換による分子ローターとの複合化について研究を行ったが、錯体のアダマンタンアンモニウム塩やキヌクリジニウム塩の結晶性が芳しくないことや、得られた結晶において分子内固体運動が発現しづらいことが判明した。検討(a)よりイオン性結晶では励起温度が高くなることが予想され、耐熱温度の低い金属錯体に適さなかったといえる。
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