研究課題/領域番号 |
26410069
|
研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
小澤 智宏 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70270999)
|
研究分担者 |
猪股 智彦 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40397493)
米村 俊昭 高知大学, その他の研究科, 教授 (90240382)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | ニトロシル錯体 / 光可逆的配位 / 電極表面修飾 |
研究実績の概要 |
26年度は以下の2つについて研究を行った。 1.可逆的脱着が可能なNO高選択金属錯体の合成:25年度までに合成してきたNO高選択型金属錯体の設計指針に基づき、感光性を示す芳香族化合物を導入した新規Co(III)錯体の合成を行った。配位子の強い電子ドナー性を維持し、かつ取り扱いしにくいチオール配位を避けるために新たにピロールを導入した。このCo(III)錯体の構造は単結晶X線構造解析により、4配位平面構造を有していることがわかった。ここにNOを反応させたところほぼ定量的にニトロシル錯体が生成するとともに、Co(III/II)に相当する酸化還元電位の大きなシフトが観測された。これはNOセンサー構築のための電極修飾分子として非常に有用な性質である。このニトロシルCo(III)錯体に可視光線を照射したところ吸収スペクトルの変化が生じ、NO付加前のCo(III)錯体に相当する吸収スペクトルを示した。このことから、目標としていた分子の構築に成功したと考えられる。 2.制御された空間を持つ修飾電極の作成と分子挿入の試み:以前までの研究で、電極表面に対して立体障害を持つ4級ホスホニウムを導入すると、錯体分子が挿入可能な空間を作り出すことができることがわかった。26年度はすでに構築できている空間の再構築・評価とその空間への分子挿入を試みた。長鎖アルキルを導入したビス(4級ホスホニウム)ジスルフィドを合成し、金電極をそのアセトニトリル溶液に浸漬することで電極表面への修飾を行った。硫黄の脱離に伴う電流値から修飾分子数を推定したところ、予想最大被覆率の1%程度であることがわかった。これはかなり大きな空間を有していることを示している。ここにN2S2型Co(III)錯体を挿入を試みたところ、Co(III/II)に帰属される酸化還元電位が見られたことから、分子挿入に成功したと言える。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
26年度の計画では、概要に示した2つの内容について検討した。 項目1における可逆性を示すNO高選択的金属錯体は、チオールに変えてピロール、エチレンに変えてフェニレンジアミンを骨格とすることで光官能性を高めた分子設計に基づき合成を行ったが、NOの配位においてはチオールの場合と比較して少ないNO濃度で定量的に反応することが見出され、またニトロシル錯体への可視光照射によりNOの脱離が見られたことから、年度計画したすべての性質を反映した分子の開発に成功した。
項目2では、既存の修飾電極表面に分子そのものを導入することを試みた。嵩高い置換基を有する4級ホスホニウム塩では、正電荷を有していることと内部に大きな空間を有していたことから、負電荷を有するコバルト(III)錯体の導入は容易であると考えられたことと、電極への直接的な相互作用を避けられれば分子の性質変化を考慮する必要がないと考えられたため、この手法を実施した。電極表面へのホスホニウム塩の導入を、再現性確認も兼ねて実施し、以前と同じ状態での表面修飾を確認できた。この電極をアセトニトリル溶液中に溶存させたN2S2型コバルト(III)錯体を導入したところ、コバルト(III/II)に相当すると帰属できる電流が確認できたことから、こちらの実験についてもほぼ予定通り実施できたと考えられる。可能であればNOとの反応性についても確認したかったが、NOの取り扱いが困難であった頃から実施できなかった。
|
今後の研究の推進方策 |
27年度も上記2項目を継続して実施していく 項目1.可視光によるNO脱着可能な分子の電極表面への修飾部位の導入と電極修飾:26年度に合成に成功したNO可逆的脱着可能なコバルト(III)錯体に、電極修飾可能な官能基の導入を実施する。現在のところ、2つの官能基を考えている。一つ目としては、金電極表面に対して自己集積化を用いることで容易に修飾・評価することが可能なアミノ基の導入である。このアミノ基に対して含硫官能基を有するアルキルカルボン酸を縮合することで電極修飾用分子の導入が可能であると考えられる。この手法は、自己集積化を用いているため表面状態を比較的制御しやすく評価も比較的容易であるメリットを有する反面、従来の研究でも見られたように分子が電極表面に対して水平に配向する可能性がある。この場合には、分子自身が電極表面の電場の影響等を受けることで従来の錯体の性質が変化する場合があり、この制御が可能かどうかを詳細に検討していかなければならない。このような分子の変質が生じた場合、表面との直接相互作用できない環境に分子を配置する必要があり、そのための手法として同時進行で電解重合可能な官能基の導入を試みる。こちらでは積層されることにより、高分子マトリックス内に錯体が捕捉されることで電極表面との直接相互作用を避けることが可能であると考えられる。
項目2.制御された空間を持つ修飾電極を用いたNOセンシング電極の作成:本手法は上記と同様の電極表面との直接相互作用を制御するための手法として上記方法と同時に進行する。こちらではホスホニウム集合体の間隙に挿入されている場合と表面に静電的な相互作用で吸着している場合では、安定性がことなることが予想される。すなわち後者の場合にはイオン交換等で容易に交換される可能性があり、挿入されたコバルト(III)錯体の安定性について詳細に検討していく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
26年度は2、3月の2ヶ月間、海外における研究業務のため別の研究費で出張していた。その結果、国内での学会等に参加するために申請していた出張費が使用されずに残ったものがその主な内訳になる。また年度内は合成を主として実施しており、以前から合成してきた化合物と共通の試薬等がそのまま利用できたため、それも残額の繰越額に反映されている。
|
次年度使用額の使用計画 |
27年度は26年度に申請した試薬類の新規購入も必要であり、また、実験内容も2課題分の物品費(特殊ガラス器具を含む消耗品やNOガスボンベ等)必要があることから、繰越分はこちらで消費する予定である。
|