研究課題/領域番号 |
26410072
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
岡村 高明 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (90252569)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 生物無機化学 / 酵素 / モデル / 疎水空間 / 水素結合 / 鉄-硫黄クラスター / ニトロゲナーゼ / モリブデン |
研究実績の概要 |
モリブデン酵素の一種であるジメチルスルホキシド(DMSO)還元酵素は還元状態がMo(IV)で、DMSOを酸素原子移動反応(OAT)によりジメチルスルフィド(DMS)へと還元し、Mo(VI)=Oを生じる。このオキソ配位子には近傍のトリプロファン(Trp)側鎖のNHとの間に水素結合が形成されている。一方、Mo(VI)からMo(IV)へ戻る過程は2電子還元ではなく、Mo(V)-OHを経由する2段階の1電子還元と考えられている。本研究では、錯体を用い微小疎水空間内で形成されるNH+…O=Mo水素結合をモデル化した。酵素の基質でもあるMe3NOの還元反応は極性溶媒中では、従来と同じOATにより進行し、Mo(VI)=Oを与えた。一方、非極性溶媒であるトルエン中では、1/2当量のMe3NOでMo(V)を生じた。また、対カチオンがルチジニウムイオンの場合は、トルエンに溶解するだけでMo(V)を生じた。この結果は、疎水的空間で強く形成されるNH+…O=Mo水素結合によりモリブデンからルチジニウムカチオンへの1電子移動が誘起された事を意味し、酵素の触媒サイクル中でTrpH…O=Mo水素結合がMo(V)-OH種の生成に寄与している事を示唆する。 本研究で設計した分子内NH…S水素結合と非常に嵩高い疎水性置換基を併せ持つ配位子を用い、中性のビス(アレーンチオラート)鉄錯体を合成、硫黄(S)の添加によるクラスター形成を検討した。報告に従い、[8Fe-7S]クラスターの合成を試みたが、中間体である[2Fe-2S]クラスターが結晶として得られた。 従来、[4Fe-4S]クラスターは極性溶媒中で最も安定な構造の一つと考えられてきたが、先の嵩高い配位子を用いたところ、アセトニトリル中で容易に分解する事が明らかになった。ホスフィンとの反応はルイス塩基性に依存して、配位子交換または架橋硫黄原子の引き抜きがおこり、[8Fe-7S]の生成は確認できなかったものの、Et3PSが配位した[2Fe-2S]クラスターを結晶として得た。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
モリブンデン酵素について、当初予定していたキサンチンオキシダーゼ(XO)、サルファイトオキシダーゼ(SO)のようなジチオレン配位子を1つしか持たない酵素モデルについては、現在検討中であるが、DMSO還元酵素モデルでは予期せぬ反応を見出し、酵素の触媒サイクルに関係した興味深い結果を得た。一方、平成26年度に予定していた[4Fe-4S]クラスターの合成に成功し、脱硫黄反応による[8Fe-7S]クラスターの形成の検討まで実施した。残念ながら得られた結晶は[2Fe-2S]であったが、脱離した硫黄がEt3PSとして配位しており、目的の反応は進行している事が示された。単核のビス(チオラート)鉄(II)錯体へ硫黄の導入による[8Fe-7S]クラスターの生成は反応中間体で配位不飽和なため不安定となるはずの[2Fe-2S]錯体が本研究で用いた配位子により予想外に安定化されるという結果となったが、この[2Fe-2S]クラスターを[8Fe-7S]クラスター合成のための新たな原料として反応に使用できると考えている。当初の予定の変更を余儀なくされたが、おおむね順調に進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
当初の予定に従い、昨年度達成できなかった新規モリブデン酵素モデル錯体の創製を行う。キサンチンオキシダーゼやサルファイトオキシダーゼファミリーと呼ばれるジチオレン配位を1つしか持たない酵素モデルの合成を目指す。ニトロゲナーゼの特殊なクラスターの合成は、平成26年度の予定分は挽回し、安定な[4Fe-4S]クラスターを不安定化して変換するところまでは成功した。現時点では反応を室温で行っており、温度、溶媒、当量、濃度などの条件を精査する事で研究が前進するものと期待している。引き続き研究で得られた結果をとりまとめ、成果発表を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度に未使用だった予算に加え、研究協力者が予定ほど確保できずに減少した事、合成のスケールが比較的少量で検討できたため経費が抑えられる結果となった。昨年度に予想した解析のための測定費用は学内測定費で高額とはならなかった。また、学会の開催地が日帰り圏内で移動や宿泊の経費も少なく抑えられた事も要因の一つである。
|
次年度使用額の使用計画 |
長年使用してきた真空ポンプの老朽化により、高真空を必要とする実験に支障をきたすようになり、修理では不十分で新規購入を予定している。また、研究協力者も増加するため、実験器具等の補充や測定費の増加が見込まれる。次年度は新たなモデル錯体にも挑戦するとともに昨年度少量で行った条件検討をもとに大量合成による精製・単離を行うためスケールアップが必要となる。それに伴い高価な試薬の購入、配位子の大量合成、機器分析測定費や機器使用料などの増額が予想されるため、次年度使用額分をこれに充てる。
|