研究実績の概要 |
本年度も長寿命励起状態を有し、光化学反応性が高い可能性のある新規錯体の合成も行った。その結果ジホスフィンオキシド配位子(ビス(ジフェニルホスホリル)アミドdppaO2)を有する新規錯体[Cu(dppaO2)(diphosphine)]を得ることができた(Nishi et al., Eur. J. Inorg. Chem.2017)。この錯体は一般にソフトな金属といわれている銅(I)に、ハードな酸素ドナーが配位した珍しい錯体でしかも励起状態寿命が長いという特徴を持っている。 この錯体の励起状態についてはDFTおよびTDDFT計算による理論的な電子状態の考察も行った。その結果、この錯体は四面体型であるが励起状態では銅(I)にしばしば見られる平面よりの構造への変化が見られること、励起状態はMLCTと考えられることが明らかとなった。 また、錯体を光化学酸化還元反応の光増感剤として用いるためには、錯体が可逆な酸化還元特性を持っている必要があるが、従来用いてきた錯体のうちいくつかのジホスフィンを含む銅(I)錯体が電気化学的、あるいは化学的に可逆な酸化還元を示すことも見いだした。(Nishikawa et al., Bull.Chem.Soc.Jpn., 2017) さらに銅錯体を用いる二酸化炭素光還元の実験を行った。銅(I)錯体を光レドックスメディエータとして用いる研究は既に行われているが、銅(I)錯体のみで二酸化炭素を還元させる報告はなされてない。本研究では錯体としては4,7-ジフェニル-2,9-ジメチルフェナンスロリンと1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタンを有する銅(I)二核錯体と取りエタノールアミンの溶液に光照射を行い、錯体の60%程度のCOが発生することを確認することができた。
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