研究課題/領域番号 |
26410087
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
芦沢 実 東京工業大学, 理工学研究科, 助教 (80391845)
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研究分担者 |
松本 英俊 東京工業大学, 理工学研究科, 准教授 (40345393)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 機能性有機半導体 / 有機デバイス / 有機電界効果トランジスタ / 光熱電変換素子 |
研究実績の概要 |
本年度はこれまでに合成した、様々の側鎖を持つチエノイソインジゴ骨格を有するポリマーの示す、狭いエネルギーギャップ(0.59ev)の起源について計算及び実験の両側面からの解明を行った。チエノイソインジゴ分子の単量体から6量体までを合成し、酸化還元特性や光学特性を調べ、特にHOMOレベルとLUMOレベルの変化を明らかにした。その結果、チエノイソインジゴ分子の6量体でほぼポリマーと同等の電子構造を持つ事がわかった。また計算によりチエノイソインジゴ3量体をモデルとして、分子鎖方向の結合交替について詳細に調べた結果、チエノイソインジゴ骨格が強いキノイド性を持ち、このキノイド構造の寄与がパイ電子系の有効な拡張及び狭いバンドギャップ化の起源であることを明らかにした。この結果はラマンスペクトルの測定からも実験的に証明された。 さらに本年度はチエノイソインジゴ骨格に対して、ベンゼン環を縮環させてパイ電子系を拡張したベンゾチエノイソインジゴ骨格の合成に成功した。酸化還元特性や光学特性などの基礎物性を調べるとともに、電界効果トランジスタを作成しキャリア輸送特性を調べた。テトラテトラコンタン処理を施した基盤において電子輸送の優勢なアンバイポーラ特性(0.1cm2/Vs)を、オクタデシルシラン処理を施した基盤では、ホール輸送特性(>0.1cm2/Vs)を示した。これらの輸送特性をチエノイソインジゴ分子と比較して、電子構造及び結晶構造の観点から詳細に解析し、分子構造が輸送特性に及ぼす影響を明らかにした。 この他に、高平面性のキノキサリンイミド系のアクセプターユニットを設計、合成しこのユニットを用いたポリマーが大気安定な電界効果トランジスタの電子輸送に有利であることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究のターゲットはチエノイソインジゴ骨格の高い平面性を活かしたポリマー骨格の設計、合成と、様々な側鎖形状を利用した薄膜構造の制御である。この点において本年度得られた実績は、新たに得られた知見であるチエノイソインジゴポリマーの持つ特異な狭エネルギーギャップの起源を、理論と実験の両面から明らかにしたことであり、この結果はチエノイソインジゴ骨格を用いた新規な狭エネルギーギャップ有機半導体の開発に直接結び付くものであり、おおむね順調に進展していると判断した。さらにこの結果を踏まえて同様に高い平面性を持つキノキサリンイミド系の新規なアクセプターユニットの開発にも成功している。この新規なユニットをジケトピロロピロール系のユニットと組み合わせたポリマーを合成し、このポリマーがチエノイソインジゴポリマーと同等の狭いエネルギーギャップを持つ事を明らかにしている。さらに電界効果トランジスタを作成し、キャリア移動度を評価した結果、大気安定で比較的高い電子移動度(>0.1cm2/Vs)を達成した。この点も踏まえて、当初の計画に対して新たな展開であり、おおむね順調であると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
新規分子の合成は引き続き行うとともに、合成と物性解明の進捗に合わせて電界効果トランジスタや太陽電池への応用を進めていく。本年度新たに開発したキノキサリンイミド系のアクセプターユニットは大気安定でn型動作するポリマーを与えることから、この系のパイ電子系を拡張した新規なアクセプターユニットの開発を計画している。計算からトリアゾール環を縮環させることで、平面構造を維持しLUMO値を大気安定な領域まで低下することが示唆されている。薄膜作成プロセスとして本研究課題にある、ソリューションシェアリング法を用いて活性層を作成し、分子配向とキャリア輸送の関係を調べていく。 また当初の計画から開発したチエノイソインジゴポリマーは狭いエネルギーギャップ(0.59ev)を持つことに起因して、電界効果トランジスタにおいてノーマリーオン状態のホール輸送特性を示したと考えられる。今後は、逆に狭いエネルギーギャップを持つことを最大に利用して近赤外光を吸収し、このエネルギーを熱エネルギーへ変換し、生じた熱勾配による起電力を外部に取り出す、光熱電変換素子への応用を計画している。キノキサリンイミド系とジケトピロロピロール系のポリマーにおいても狭いエネルギーギャップを持つことが示されたため、同様の応用を試みる。
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