研究課題/領域番号 |
26410091
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研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
今野 勉 京都工芸繊維大学, 工芸科学研究科, 教授 (70303930)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 2,3-ジフルオロ-2-シクロヘキセノール / 脱フッ素化反応 / ヒドロシリル化反応 / 玉尾酸化 |
研究実績の概要 |
申請者は、既に、液晶分子骨格にテトラフルオロシクロヘキサンあるいはヘキセン構造を導入すると、優れた液晶物性が発現することを見出している。本研究では、そのシクロヘキサン環やヘキセン環へ導入するフッ素原子の位置・立体化学・数と液晶物性との相関関係を明らかにし、加えて他の置換基の役割を証明することで、高性能液晶分子の開発へと展開することを目的とした。 まず、シクロヘキセン環へ導入するフッ素原子の数と液晶物性との相関関係を明らかにするため、4-アリール-2,3-ジフルオロ-2-シクロヘキセン-1-オールの合成を行った。すなわち、DMF中、4-アリール-2,2,3,3-テトラフルオロシクロヘキサン-1-オンに、4当量のMgと4当量のTMSClを加え、0 °Cで4時間攪拌した後、NaHCO3水溶液で処理すると、2,3-ジフルオロ-2-シクロヘキセン-1-オンが得られた。この化合物のカルボニル基還元反応は、各種還元剤によって達成され、続くメチルエーテル化を経て、目的の液晶候補化合物を異性体混合物として得た。 上記の合成では、4-アリール-2,2,3,3-テトラフルオロシクロヘキサン-1-オンを経る。この化合物は既に申請者が合成法を確立していたが、低収率であり、極めて非効率な合成経路であった。そのため、別法を探索していたところ、Co2(CO)8触媒存在下、1-アリール-5,5,6,6-テトラフルオロ-1,3-シクロヘキサジエンとヒドロシランとのヒドロシリル化反応が高位置選択的に進行し、2-アリール-3,3,4,5-テトラフルオロ-5-シリル-1-シクロヘキセンを与えることを見出した。このヒドロシリル化体は、接触水素化/玉尾酸化によって容易にアルコール体に変換でき、その後酸化することで、4-アリール-2,2,3,3-テトラフルオロシクロヘキサン-1-オンに導けることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度では、1,2-ジフルオロシクロヘキサン環の立体選択的な合成法の開発ならびにその液晶物性評価を予定していた。しかし、合成開発が思うように進行せず、目的生成物の構築にはなかなか至らなかったため、平成27年度以降に行うことを予定していたジフルオロシクロヘキサノール誘導体の構築を先に行った。閉環メタセシスを用いた合成は失敗に終わったが、金属MgとTMSClを用いた脱フッ素化反応は期待通りに進行し、目的のジフルオロシクロヘキセノン誘導体を与え、その後、目的化合物へと導くことができた。 その他、4-アリール-2,3-ジフルオロシクロヘキセン-1-オンを接触水素化することで、4-アリール-2,3-ジフルオロシクロヘキサン-1-オンを構築できることも判明しており、この化合物のカルボニル基の還元、続くエーテル化を経ることで、ビシナルジフルオロシクロヘキサン骨格を構築できる。また、上記ジフルオロシクロヘキサノン誘導体を、エノールトリフラート化、続くクロスカップリング反応によって、置換基の異なる液晶候補化合物の合成も可能であることはほぼ確実である。 一方、研究計画書には記載されていなかった4-アリール-2,2,3,3-テトラフルオロシクロヘキサン-1-オンの簡便合成法として、1-アリール5,5,6,6-テトラフルオロ-1,3-シクロヘキサジエンのヒドロシリル化反応を見出した。本研究で合成する液晶候補化合物の全てが、この化合物を経由して合成できることから、この化合物が共通の合成中間体であるため、その開発意義は極めて大きい。 このように、当初の研究計画に沿って研究を遂行することはできなかったが、うまくその対応策を考案したことにより、より効率的な合成法の確立とともに、当初予定していた液晶候補化合物の合成も可能となったことから、本研究は概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
具体的には以下の5項目を予定している。 (1)昨年度、4-アリール-2,2,3,3-テトラフルオロシクロヘキサン-1-オンから脱フッ素化反応を経由して、4-アリール-2,3-ジフルオロ-2-シクロヘキセン-1-オンを合成し、その後、常法により4-アリール-2,3-ジフルオロ-2-シクロヘキセン-1-イルメチルエーテルへと導いた。しかし、この化合物はシス/トランス異性体の混合物であり、現段階ではシリカゲルカラムクロマトグラフィーによる分離が困難であることがわかっている。そこで、平成27年度以降は、再結晶などにより異性体混合物からのトランス体の単離を試みる。これと平行して、合成途中でのカルボニル基のトランス選択的還元法を開発する。(2)4-アリール-2,3-ジフルオロ-2-シクロヘキセン-1-オンの立体選択的1,4-還元反応を開発し、得られる2,3-ジフルオロシクロヘキサノンのエノール/トリフラート化とGrignard試薬とのカップリング反応により、4-アリール-1-エチル-2,3-ジフルオロ-1-シクロヘキセンを合成する。(3)(2)で得られた4-アリール-2,3-ジフルオロシクロヘキサノンのケト-エノール平衡反応を利用して、2,3位の2つのフッ素原子がトランス配置である異性体の選択的調製法を開発する。得られたtrans-2,3-ジフルオロシクロヘキサノンにおけるカルボニル基の立体選択的還元とメチルエーテル化によって、1-アリール-2,3-ジフルオロ-4-メトキシシクロヘキサンの2,3-アキシアル体とエクアトリアル体を合成する。(4)研究計画書に記載した他の化合物も、順次、4-アリール-2,3-ジフルオロ-2-シクロヘキセン-1-オンから合成する。(5)合成した化合物の誘電率異方性と粘性を測定し、フッ素原子の立体化学・数・位置と液晶物性との相関関係を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画書に記載した平成26年度計画が、計画通りになかなか思うように進まなかったため、平成27年度に行うことを予定していた研究計画を先に実行したことが主要因と考えられる。また、当初、本研究とは異なる研究プロジェクトにおいて見出した合成反応(1,4-二置換型-2,2,3,3-テトラフルオロシクロヘキサジエン誘導体の高位置選択的ヒドロシリル化反応を基盤とする5,5,6,6-テトラフルオロ-3-シクロヘキセン-1-オールの簡便合成)を本研究に適用することで、調製する基質が予想外に短段階で合成できるようになったことも、次年度使用額の発生要因であると思われる。
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次年度使用額の使用計画 |
当初に予定していた研究計画がなかなかうまく遂行できず、必然的に幾分修正を加えたところ、平成27年度以降、その開発が強く望まれる反応が生じてきた。含フッ素シクロヘキセノンの高立体選択的1,4-還元反応、ならびに含フッ素シクロへキセノンおよび含フッ素シクロヘキサノンの高立体選択的カルボニル基還元反応である。この研究は研究計画書に記載のない追加研究であり、現在の予定では、各種還元剤を試みるほか、遷移金属を用いた触媒的還元反応も行うことを計画している。これらの試剤は高価なものも多く、次年度使用額を充当する予定である。 上記還元反応の研究は追加研究であり、望む結果が得られれば、その結果を基にして、研究計画書に記載されている研究計画に沿って順次、研究を遂行していくこととなる。
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