研究実績の概要 |
液晶分子のメソゲン部位に、テトラフルオロシクロヘキサンあるいはシクロヘキセン骨格を導入すると、極めて大きな負の誘電率異方性が発現し、優れたネガ型液晶分子となる。本研究では、そうしたテトラフルオロシクロヘキサン骨格を含む、各種含フッ素環状構造の簡便かつ効率的合成法の開発を行うとともに、液晶物性に及ぼす置換基効果について調査した。 まず、コバルト触媒存在下、1-アリール-5,5,6,6-テトラフルオロ-1,3-シクロヘキサジエンを用いたヒドロシリル化反応の開発によって、高位置選択的かつ高収率で2-アリール-3,3,4,4-テトラフルオロ-5-シリル-1-シクロヘキセンを得ることができた。この生成物を用いて、接触水素化/玉尾酸化を含む数段階の化学変換を行うことで、アルコキシ基含有テトラフルオロシクロヘキサンあるいはシクロヘキセンを持った液晶分子の短段階合成が可能となった。 前述のアルコキシ基含有テトラフルオロシクロヘキセンを持った液晶分子に関し、その分子が持つ極めて大きな負の誘電率異方性の理由を探るべく、理論計算を行った。その結果、ビニルエーテル部位の平面性とフッ素原子のかさ高さによって、アルコキシ基の回転障壁が増大し、アルキル基がフッ素原子との反発を避けるように、すなわち酸素原子の非共有電子対がフッ素原子と同方向を向くよう、コンフォーマーが固定されることが大きな要因であることを実証した。 一方、上記のテトラフルオロシクロヘキサノール誘導体の酸化によって得られる4-アリール-2,2,3,3-テトラフルオロシクロヘキサン-1-オンに対し、還元的脱フッ素化反応を施すことで、4-アリール-2,3-ジフルオロ-2-シクロヘキセン-1-オンが得られた。この化合物を1,2-還元し、Williamsonエーテル化を行うことで、新たな含フッ素液晶分子の構築にも成功した。
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