研究課題
本年度は、量子化学計算から物性シミュレーションへとスムーズにつなぐ方法を確立し、様々な系での実験結果をシミュレーションにより再現することを目指した。具体的には(A)1次元錯体のスピン多重度におけるにおける電気伝導生の違いの理論予測、(B)多核錯体の磁気的相互作用と多重双安定性の理論的説明、(C)亜鉛錯体における光物性の理論的説明の3つである。いかに詳述する。(A)1次元錯体のスピン多重度におけるにおける電気伝導生の違いの理論予測:現在、電子デバイスの微小化の流れが進んでいることから、単分子電気伝導が大変注目を集めている。他方、そのメカニズムは十分に明らかになっていない。さらに、単一分子の伝導性を外場により制御出来れば、分子スイッチとしての利用も可能となる。本年度は昨年に引き続きNi1次元錯体に着目し、特にスピン多重度の違いによる伝導性の違いを予測することに成功した(学会発表済み/論文投稿準備中)。(B)多核錯体の磁気的相互作用と多重双安定性の理論的説明:単一分子おいて複数の状態を安定にし、外場により制御できれば、複数の物性を外場制御できる可能性が高まる。本年度は筑波大学の大塩グループにより報告されている多重双安定性を示すFe-Co4核錯体に着目し、その電子状態と物性を明らかにした(学会発表済み/論文発表済み)。(C)亜鉛錯体における光物性の理論的説明:上述のように、単一分子でも条件により複数の性質を引き出すことは、分子センサーへの応用も期待できる。本年度も昨年度に引き続き東京大学の西原グループとの共同研究を展開し、溶媒の極性により蛍光発光変化する亜鉛錯体に着目した。量子化学計算の結果、電子状態と光物性の関係を明らかにすることに成功した(学会発表/論文発表済み)
2: おおむね順調に進展している
上述の通り、本年度は(A)-(C)の課題において広く研究を推進し、多くの学会発表・論文発表を行った。これらの知見は分子素子への理論設計の基本的指針となるもので、本研究課題の目的を達成するものである。(A)の課題では、錯体のスピン状態の違いによる電気伝導性に差異が見られ、磁場制御による分子スイッチの可能性が示唆された。(B)の錯体では、光あるいは温度によるスピン状態の違いが観測されているが、その詳細な電子状態と磁性そして光物性の関係を明らかにすることに成功したが、これらの結果は、外場制御の方法論への強力な理論的示唆となった。最後に(C)では亜鉛ジピリン錯体の蛍光特性が溶媒の誘電率で変化するメカニズムを理論計算で明らかにした。本系は、生体プローブなどへの応用が期待され、詳細の機構解明と分子設計が課題となっていることから、その目的のための重要な知見が得られた。以上の研究の多くは、実験研究者との共同研究者で進められており、その一部は国際共同研究である。以上の点から、本研究課題は概ね順調に進んでいると思われる。
本研究課題では、『測定条件』での実験結果を量子化学計算に基づいて再現すること、且つ設計した分子の物性を予測可能とすることの2点を克服し、量子化学計算ならびに物性シミュレーション法を克服することを目的としている。つまり、化学的環境や基盤などの効果を取り入れた上での物性シミュレーションを通じ、最終的には分子や配位子の設計と、物性観測量を予測するまでを目標としている。過去二年で計算アプローチの確立、測定条件での実験結果の理論的説明、さらには理論予測まで達成している。最終年度に向けて、電極や基板上の効果の取り込みをさらに進めて行く必要性が残っており、この点を推進する。またさらに実験との共同研究を推進し、分子素子の設計と実現を目指す。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 2件、 査読あり 10件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 6件、 招待講演 5件) 図書 (1件)
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