研究課題/領域番号 |
26410101
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
森本 正和 立教大学, 理学部, 准教授 (70447126)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 超分子化学 / 分子性固体 / フォトクロミズム / ジアリールエテン / 圧電効果 |
研究実績の概要 |
フォトクロミック分子の光異性化反応により変形して圧電効果を示す分子結晶(フォトクロミック圧電結晶)を創製することを目的として、極性結晶構造を有するフォトクロミック分子結晶の光反応挙動、ならびにそれに伴う結晶変形と電流発生について検討した。 中心対称性がない極性空間群に属し、自発分極を有すると考えられるジアリールエテン系フォトクロミック分子結晶に着目して研究を行った。無色の開環体結晶に紫外光を照射すると、閉環体が生成することにより結晶は青色に変化し、その後可視光を照射すると開環体に戻ることで退色した。紫外光の照射により着色した結晶の顕微偏光吸収スペクトルを測定したところ、入射偏光方向に対するスペクトルの異方性が観測されたことから、フォトクロミック分子の光異性化反応が単結晶相で進行していることが認められた。量子化学計算に基づくシミュレーションにより、開環体と閉環体で電気双極子モーメントが変化することが示唆された。単結晶X線解析により結晶構造の変化を検討したところ、紫外光の照射により閉環体が生成することで格子定数が異方的に変化し、可視光の照射により格子定数がもとに戻ることが観測された。極性結晶構造を有するフォトクロミック分子結晶において、光異性化反応により結晶格子が可逆的に変形することが示唆された。 圧電効果を検討するために、測定装置のセットアップと光誘起電流発生の計測を行った。単結晶試料に対して自発分極と平行な方向に電極と金属線を取り付け、エレクトロメーターに接続することで、光照射により生じる電流の測定を試みた。単結晶に紫外光を照射すると過渡的な電流が生じる兆候が見られたが、この現象がフォトクロミック分子の光異性化反応により誘起されているかどうかを見極めるためにはさらに詳細な検討が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
フォトクロミック分子結晶の光異性化反応により誘起される圧電効果(光誘起圧電効果)は本研究課題を通じて初めて提案する新概念であり、その実証のためには緻密な実験と考察が必要である。現時点ではまだ実証には至っていないが、極性空間群に属するフォトクロミック分子結晶について光照射による可逆的な異性化反応とそれに伴う結晶変形を観測できたこと、また光誘起電流発生の計測に着手したことにより、まずは初めの1年で第一歩を踏み出せたと考えている。よって、本研究課題はおおむね順調に進展していると評価した。続く2年の研究期間でより詳細な検討を行っていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
電流計測の精度を高めるために、光誘起電流発生の測定装置のセットアップや分子結晶試料などを再検討する。具体的には、電気配線や電気シールドの改善、単結晶試料と電極の良好なコンタクトの獲得、試料断面積の増大、照射光波長の制御による光異性化反応の進行の促進などを試みる。光異性化反応と電流発生の相関を明らかにするために、紫外光と可視光の交互照射による電気応答の可逆性を調べる。研究対象物質としては、平成26年度に検討した分子結晶に加えて、極性空間群に属することが知られている他の分子結晶も検討する。光照射による大きな応答を得るために、フォトクロミック分子に適切な置換基修飾を施した新物質を合成することで光異性化反応に伴う電気双極子モーメント変化を増大させることも試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
「その他」として論文投稿費を見積もっていたが、論文発表した雑誌については論文投稿費が不要であったため。
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次年度使用額の使用計画 |
残額は次年度分とあわせ、主に合成用試薬やガラス器具などの物品費に割り当てる予定である。
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