研究課題/領域番号 |
26410113
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
小泉 武昭 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 准教授 (60322674)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 異種二核錯体 / ロジウム / ルテニウム / 一酸化炭素 / 電気化学 / 電解還元反応触媒 |
研究実績の概要 |
本研究は、二酸化炭素の電気化学的多電子還元反応の実現に向けて、解決すべき問題の一つである一酸化炭素の還元的活性化を目指している。一酸化炭素還元を論理的に進行できるシステムを組み込んだ金属錯体を開発することを目的としている。 平成27年度は、前年度に合成した異種二核錯体[(tpy)Ru(CO)(μ-bpp)RhCl(tpy)](PF6)3 ([1](PF6)3, tpy = 2,2’:6’,2”-ターピリジン) および [(tpy)Ru(CO)(μ-bpp)RhCl(Cp*)](PF6)2 ([2](PF6)2, Cp* = ペンタメチルシクロペンタジエニル) を用いて、前年度に得られた錯体の電気化学的反応に関する知見に基づいて、一酸化炭素の触媒的電解還元反応について検討した。 錯体[1](PF6)3および[2](PF6)2を触媒に用いて、一酸化炭素の電気化学的還元反応を試みた。錯体[1](PF6)3を用いて反応させると、溶液の色が赤褐色から暗紫色と変化し、錯体の還元が起こったことが強く示唆された。溶媒として10%の水を加えて電解還元反応を行ったところ、僅かではあるが新しいピークが観測され、分析の結果メタノールであることが強く示唆された。その収率は3%であった。反応後の溶液のESI-MSスペクトルを測定した結果、[Rh(tpy)]ユニットが外れた錯体と考えられるシグナルが観測されたことから、電解還元条件下ではRhユニットが解離しやすいと考えられる。次に[2](PF6)2を触媒に用い、 [1](PF6)3の場合と同様の条件で電解還元反応を行ったところ、溶液の色は変化したが、メタノールの生成は認められなかった。そこで、溶媒に含まれる水の量を調整して電解反応を試みた結果、5%含水アセトニトリルを溶媒に用いた時にメタノールと考えられるシグナルをGCおよびGC-MSより観測した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度までに合成に成功したヒドリド生成部位であるロジウムを中心金属とするユニットと、一酸化炭素の捕捉および活性化を行うルテニウム部位を、2個の金属を適切な位置に固定可能であると期待される配位子 (3,5-ビス(2-ピリジル)ピラゾレート、dpp) で連結した錯体[1](PF6)3および[2](PF6)2について、合成法を確立できた。電気化学的還元反応は、セパレート型セルを用い、アセトニトリル-水溶媒中、触媒である[1](PF6)3あるいは[2](PF6)2を1 mmol l-1、電解質としてMe4NPF6を0.1 mol -1の濃度になるように調製し、一酸化炭素を溶液中にゆっくりと導入しながら-1.7 V (vs. Ag+/Ag) で行った。[1](PF6)3を用いて反応を行った反応溶液について、GCおよびGC-MSを用いた反応生成物の分析の結果、GC-MSでは、m/z = 28, 29, 31にメタノールに特徴的なピークが見られたこと、GCのリテンションタイムがメタノールとほぼ一致していることから、メタノールが生成していると考えられる。メタノールの生成に関するさらなる知見を得るために、重水を用いた電解の検討を行ったが,重メタノールの生成を確認するには至っていない。しかしながら、一酸化炭素の還元的な活性化の可能性を示せたという点で意義は大きいと考える。電解還元条件下における[1](PF6)3の安定性に問題があることがわかったので、[2](PF6)2についての検討を行い、より効率的に反応を進行させるためには、溶媒中の水の濃度およびpHの調整が必要であることが強く示唆されており、この点のさらなる検討が必要である。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの検討結果により、[1](PF6)3は電解還元反応触媒としては安定性に難があること、および[2](PF6)2が電解還元反応条件では錯体の分解は起こさないことを明らかにしてきた。さらに、[2](PF6)2は一酸化炭素の還元的活性化の触媒となりうると考えられる知見が得られている。しかしながら、その反応活性および効率は非常に低いものに留まっており、その改善が必須である。反応の活性を上げるための条件としては、反応溶媒の選択、pHの最適化が必要であると考えられる。溶媒としては、触媒である[2](PF6)2および一酸化炭素が溶解性を示すこと、プロトンの供給ができること、電解還元の条件に耐えうることなどが必須となる。したがって、溶媒系としてはプロトン源となる水を含んだ有機溶媒が好ましいと考えられる。N,N-ジメチルホルムアミドやジメチルスルホキシドが候補として考えられたが、これらの溶媒採水を混合した系では還元反応は全く進行しなかった。一方、アセトニトリルを用いた系では僅かではあるが反応が進行する知見が得られている。したがって、溶媒としてはアセトニトリル-水混合溶媒が適していると考えられる。今後は混合比、プロトン濃度を最適化することで、一酸化炭素がより効率的に還元される条件を見出す。さらに、[2](PF6)2そのものの電解還元生成物について得られている情報が少ないことから、電気化学的還元、あるいは化学還元により生成する錯体の単離および構造解析を行う。以上の検討より、一酸化炭素の還元的活性化が効率良く進行する反応条件を見出すことができたら、重水あるいは13COを用いたラベル実験を行い、一酸化炭素からメタノールへの変換に関する知見を得ることを目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度の検討結果により、[1](PF6)3は電解還元反応触媒としては安定性に問題があり、この改善として[2](PF6)2を新たに合成した。電気化学反応の条件下に於ける安定性について検討したところ、[1](PF6)3に比べて高い安定性を持つことが明らかになった。[2](PF6)2による一酸化炭素の還元的活性化について条件検討を行っているところではあるが、溶媒、水の添加量、一酸化炭素の濃度、反応電位、電解質の種類、反応系中の酸の濃度(pH)など検討事項が多岐にわたる。したがって、最適化条件の探索に時間がかかっているのが現状である。反応条件の最適化ができたら、13COなどの高価な試薬を用いるラベル実験が必要となる。さらに、錯体の合成原料である塩化ロジウム、塩化ルテニウムなどは高価であり、且つ吸湿性がある。これらの試薬は実際に使用する際に購入すべきものであるため、次年度使用額が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
錯体の合成原料である金属塩、有機試薬、無機試薬代として60万円、不活性ガス代として20万円、ガラス器具、消耗品代として50万円、研究打ち合わせ、学会発表等の費用として25万円、論文別刷り代等の費用として15万円を計画している。
|