研究実績の概要 |
有機化合物におけるケイ素置換基は酸化などの反応によって有用物質へと変換可能な置換基であり,特に本邦の化学界において広く研究されている研究対象の一つである.前年度までに発見し,報告していたカルボニル基を有するアリルシラン化合物における1,4-アリールシフトに関し,ケイ素置換基の立体電子効果についてより詳細な知見を得るため実験的および理論的見地から検討を行った.まず,カルボニル基を持たない単純なアリルシランに対して強酸を加えて反応を行ったが,単にケイ素置換基の脱離が起こるのみでアリールシフトは確認されなかった.これによりカルボニル基の存在によってアリールシフトが促進されていることが裏付けられた.また,種々の置換基効果についても検討し,アルケン上の置換基が嵩高い場合にはアリールシフトよりもプロトデシリレーションが優先するという知見を得た.この反応によって得られた生成物は玉尾ーフレミング酸化を施すことにより容易にジアリールヒドロキシケトンへと立体特異的に誘導可能であることも確立された.これらの裏付けとなる詳細な理論計算を進め,妥当な中間体はカルボニル基がケイ素に配位したカチオン中間体であると決定した.以上の知見は有機ケイ素化合物における反応性に関する未知の部分を解明するために有用な知見であり,有機合成やケイ素ポリマー合成などにも広く用いられる有機ケイ素化学の基盤技術の構築に与する結果であると言える.
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