研究課題/領域番号 |
26410124
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研究機関 | 千葉工業大学 |
研究代表者 |
笠嶋 義夫 千葉工業大学, 工学部, 教授 (70272341)
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研究分担者 |
坂本 昌巳 千葉大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00178576)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 不斉合成 / 不斉増幅現象 |
研究実績の概要 |
アキラルな基質を出発原料とし,キラル中心を有する化合物の生成と動的優先晶出により,不斉の発現と増幅を実現し,付加価値の高い化合物群の創出を目的として研究を推進した。本研究での不斉発現増幅現象は,①アキラルな化合物の反応により不斉中心を有する生成物が選択的に生じること,②生成した不斉中心のラセミ化と優先晶出(動的優先晶出)が系内で起こること,により達成できる。本年度は,共役カルボニル化合物へのアミンの可逆的付加反応を利用するアミノ酸誘導体の絶対不斉合成について精力的に取り組み,高い光学純度の生成物を得る反応系と結晶化条件を確立し,本手法の一般性と有用性の拡大を目指した。条件に適合する反応系を見いだすことに成功し,結晶化の条件を精査することで,99%eeの高い光学純度でのα-アミノ酸誘導体の絶対不斉合成を達成した。また,グラムスケールでの不斉合成にも適応する手法の開発にも成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アロイルアクリルアミドへのアミンの共役付加反応により,α-アミノ酸誘導体の絶対不斉合成を達成した。まずコングロメレート結晶を探索するために種々のアロイルアクリルアミドに様々なアミンを共役付加させてアミノ酸誘導体を合成し,それらの結晶構造を単結晶X線結晶構造解析により解析した。コングロメレート結晶を見いだし,前駆体となるアロイルアクリルアミドとアミンを用いて,3つの実験手法によりアミノ酸誘導体の絶対不斉合成法を開発した。 第1の手法では,N-(p-トリル)ベンゾイルアクリルアミドと2-フェネチルアミンを反応させ,そのまま,60度で撹拌しながら溶媒を徐々に蒸発させて結晶化を促す手法を検討した。この手法では,小スケールながら外的な不斉源を用いることなく2つのアキラル化合物を反応させるだけで,45%eeのアミノ酸誘導体の合成に成功した。 第2の手法では,ガラスビーズを用いたViedma熟成法を融合した手法を適応した。対応するアロイルアクリルアミドとアミンを溶液中で反応させ,ガラスビーズを加えて数日間生成物の結晶を粉砕攪拌し続けた。約10日経過後から,徐々に結晶の光学純度が上昇し,その後は非線形的にデラセミ化が進行し,母液を含めた系全体の生成物の光学純度は90%eeに達し,結晶だけの光学純度は99%eeであった。 第3の手法では,より短時間に高い光学純度の生成物結晶を得るために,上述の2つの手法を融合させた実験法を考案した。アキラルな基質を溶液中で反応させ,2日間かけて溶媒を乾固させ,低光学純度のアミノ酸結晶を得た。その後,ガラスビーズと触媒量の塩基(DBU)を加えて,Viedma熟成法を適応したところ,短期間で99%eeの高い光学純度の生成物をグラムスケールで合成することに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までにα-アミノ酸誘導体の絶対不斉合成を達成した。28年度は,本手法をアキラルなα,β-不飽和カルボン酸誘導体やフマル酸へのアミンの可逆的共役付加反応によるβ-アミノ酸や酸性アミノ酸の誘導体の絶対不斉合成に適応する。置換基を種々変えてコングロメレート結晶を数多く見出し,付加反応,ラセミ化,結晶化の条件を検討することで,本手法による高い光学純度でのアミノ酸誘導体の絶対不斉合成を達成する。また,N-アシルチオ尿素の分子内環化反応によりアミノ酸の前駆体となるチオヒダントインが得られることを予備的に見いだしている。本反応も開閉環を伴う可逆反応であり,本不斉合成法を適応することが可能である。さらに,アミノ酸合成に限らず,系統的な探索により医農薬品や天然物合成の中間体などの有用な光学活性物質創製への本手法の適応を広く展開する。
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