これまでの研究において、所定量のCu塩とNHC-Ag錯体をTHF中で1時間攪拌して生じる沈殿を含む溶液から、触媒活性を示さない沈殿物および触媒活性を示すろ液Yが得られることがわかっている。また、そのろ液Yを乾固した物質Zは、空気中で安定であり、不斉共役付加反応を促進することからCuを含む触媒活性種前駆体であると示唆されている。 本研究では、従来キラル配位子として用いていたベンズイミダゾール由来のNHC-Ag錯体をイミダゾール誘導体1に変えることで、反応系中で生じるCu種の構造解析を容易にすることを期待して検討を行った。その結果、1を利用した場合Method Aにおいて不斉収率の低下が見られた一方で、Method Bでは高い触媒活性を示すことが確認された。また、先行研究において得られた知見からMethod AおよびBの両方において、触媒活性種前駆体はNHCとCuが1 : 1の割合で形成すると示唆されている。そこで、1を用いた不斉共役付加反応でCu塩とNHC配位子をCu : NHC = 1 : 1 (5 : 5 mol%)に統一してそれぞれ反応を行った。この量関係を採用することで、Y(およびZ)の形成に関与しない余分な成分を除去することが可能になった。 次にCu種Yの構造情報を得るために、ZをDMSO-d6に溶解しNMR測定を行ったところ、NHC-Ag錯体1と異なるシグナルが観測された。特に高温(100℃)でNMR測定することが有効であることを見出し、得られたスペクトルはCu種を含むアゾリウム誘導体の形成を示唆していた。1に関して、Zが触媒活性を示したことからZはアゾリウムをカウンターカチオンとするクプラート種であると推定された。
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