本研究は水素結合性の官能基を有するポリマーブラシを合成し、その接着特性を明らかにするだけではなく、分子構造と接着・剥離特性との相関について化学的相互作用と界面構造の両面から検討を試みた。生物の細胞やタンパク分子などは水素結合やイオン結合など化学的相互作用により接着を達成していることをふまえ、水素結合を利用した新しい接着剤や粘着材料の開発や、接着界面構造を詳細に解明することを目的とした。 平成26年度は側鎖にフェノールやアルコール性OH基、ピリジニウム基など水素結合性官能基を有するポリマーブラシを基板表面に調製し、その基板同士を貼り合わせることで可逆的に接着と解離を繰り返すことが可能であることを実証した。特に、ポリ2ビニルピリジンとポリ4-ヒドロキシスチレンは800 kPa程度の引張りせん断接着強度(1cm2の接着面積で約8kgのおもりを吊り下げる強度)を示した。また、1分子でプロトン供与性と受容性官能基を合わせ持つアミノ酸含有ポリマーブラシはpHにより表面の濡れ性や防汚性を変化させ、多点間水素結合による可逆的接着を達成した。 平成27年度は分子量および分子量分布、グラフト密度の異なるポリマーブラシを調製し、これらが接着界面に与える影響について検討した。グラフト密度が高い場合にはブラシ鎖同士を対面させても排除体積効果により相互貫入は極めて困難であるが、グラフト密度が低い場合、ブラシ鎖が相互貫入するため接着界面の力学的強度も向上した。また、グラフト密度が高くても分子量分布が広い場合も接着界面では対向するブラシ鎖同士の混合が生じ、大きな接着強度を示すことが明らかとなった。 平成28年度では、2枚の基板で挟まれた接着界面を直接観察するために、物質透過性に優れた中性子線を用いた反射率測定を試みた。対向するブラシ鎖同士が相互に貫入し分子鎖混合が生じていることが明らかになった。
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