研究課題/領域番号 |
26410145
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
勝田 正一 千葉大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (40277273)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 溶媒抽出 / イオン液体 / パラコート / マイクロ抽出 / 分離濃縮 / リチウム / 海水 / 抽出吸光光度分析法 |
研究実績の概要 |
(1) イオン液体による親水性薬毒物の高倍率分離濃縮法の開発: 農薬成分として知られる薬毒物パラコート([PQ]2+)は,高親水性の2価陽イオンであるため抽出等による水試料からの分離濃縮が容易ではなく,微量分析が困難な対象である。本研究では,まず種々のイオン液体/水2相系における[PQ]2+の分配挙動を詳しく調べた。更に,得られた知見に基づいて,水中の微量の[PQ]2+を100万倍まで高倍率濃縮可能な優れた抽出能をもつイオン液体,1-エチル-3-メチルイミダゾリウム・ビス(ノナフルオロブタンスルホニル)アミドを見いだした。これを用いたマイクロ抽出法の開発により,水中の数ppbレベルの[PQ]2+を分離濃縮し,HPLC分析することに成功した。 (2) 海水中リチウムの高選択的分離定量法の開発: 平成26年度の研究で,リチウムイオン(Li+)選択性メタロホストと色素系陰イオンであるテトラブロモフェノールフタレインエチルエステル([TBPE]-)を用いたLi+のイオン対抽出-吸光光度分析法を開発した。しかし,この方法は試料中にLi+の1000倍以上のナトリウムイオン(Na+)が共存する場合には適用できなかった。そこで平成27年度は,用いる陰イオンの種類を変えることにより,抽出選択性の向上を目指した。その結果,[TBPE]-の代わりにピクリン酸イオン([Pic]-)を用いることで,抽出選択性が著しく改善することがわかった。ただし,[Pic]-では吸光分析が困難であるため,抽出後の有機相をK[TBPE]水溶液と短時間振り混ぜて抽出化学種内の陰イオンを[Pic]-から[TBPE]-に変換する方法を導入した。これらの改良によって,Li+の約2万倍(モル比)のNa+が共存する海水試料にも適用可能な優れたLi+定量分析法を確立した。 その他関連する研究として,イオン液体/水2相系における金属酸化物ナノ粒子及びクラウンエーテル-アルカリ金属イオン錯体の分配挙動の評価を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) 研究計画における「Task-specific イオン液体の探索及び創製」の研究項目については,1価・2価陽イオン種に対するイオン液体の抽出能力を支配する普遍的法則を明らかにしたことにより,抽出の目的に適したイオン液体を選定するための指針を得ることができた。また,この指針に基づいて,親水性2価陽イオンの抽出に適したtask-specificイオン液体を創製した。これを用いて,従来の分子性溶媒や市販の一般的なイオン液体では抽出が困難であった薬毒性パラコートイオンのマイクロ抽出・高倍率濃縮を達成し,HPLC分析のための前分離・前濃縮法として応用することに成功した。今後はパラコート以外の様々な抽出対象について検討する必要があるが,基礎となる理論と技術は確立できたと言える。 (2)「高イオン選択性メタロホストの創製と定量分析への応用」の研究項目については,平成26年度にLi+選択性メタロホストを用いたLi+の抽出吸光光度分析法を開発したが,Li+/Na+選択性が1000以下であり,海水等の高塩濃度試料への適用は困難であった。平成27年度は,イオン対抽出過程における対イオン(陰イオン)の選定や,対イオン交換法を取り入れた吸光光度測定の工夫により,上記の課題を解決した。その結果,本法を海水試料中のLi+の定量分析に適用できるようになった。操作上の課題が若干残されているが,当初の目標は達成されたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は当初の計画に従って,以下のように分離・分析のための実用的な抽出分離システムの開発に注力する。 (1) イオン液体を用いた貴金属(Rh3+・Pd2+・Pt4+)の抽出分離システムの開発: 平成26年度の研究で,塩酸溶液からこれらの金属を抽出するイオン液体型抽出剤の開発には成功しているが,相互分離はまだ達成できていない。一旦イオン液体に抽出されたこれらの金属を逆抽出過程で相互分離することを目指し,逆抽出剤の種類や抽出時間等の検討により,最適な方法を探索する。 (2) メタロホストを用いたLi+抽出吸光光度分析法のブラッシュアップ: 平成27年度の研究で,本法は海水への適用が可能なレベルにまで達したが,現時点では抽出時間が長いこと(8 h以上)や,用いる溶媒(トルエン)の危険性・有害性の問題がある。これらの問題点を解決して更に実用性を高めるために,加熱による抽出速度の促進,メタロホストへの親水性官能基の導入,グリーン溶媒(イオン液体,シリコーン油等)や固相抽出剤の適用について検討する。 (3) イオン液体を用いた薬毒物の超高倍率分離濃縮法の開発: 平成27年度はパラコートのマイクロ抽出に適したイオン液体を見いだすことに成功したが,平成28年度は抽出対象を更に様々な陽イオン性・陰イオン性薬毒物に拡張する。また,分離濃縮後のイオン液体相についてHPLC分析を行う際の移動相・固定相の最適条件についても検討する。 また,研究の最終年度であることから,これまでの成果をまとめ,学会や学術雑誌等に発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度は概ね当初の計画通りに研究を遂行し,当年度に受領した助成金(直接経費 900,000円)をほぼ過不足なく使用した(支出額 907,325円)。従って,実質的に平成26年度の残額分を平成28年に繰り越すことになった。
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次年度使用額の使用計画 |
本研究の遂行に必要な,試薬類(金属塩,イオン液体,メタロホスト合成用原料等)及び実験器具類(光源ランプ,純水カートリッジ等を含む)の購入に約80万円,学会旅費に約35万円,謝金に約10万円,その他(共用機器センター使用料,論文投稿料,学会参加登録料等)に約20万円を使用する予定である。
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