原子数レベルで緻密に制御された新規Au-Irアロイクラスターを合成し、分光および電気化学的特性を評価することで、クラスターの組成制御により近赤外領域に吸収を有する新規ナノ材料の開発を目的とし、Au-Irアロイクラスターの合成法の確立および生成物のキャラクタリゼーションを実施した。 Au/Ir前駆体比率を変えることでAu-Irアロイクラスターに含まれるIr原子数の異なるクラスターを調製した。調製したクラスターを、マトリックス支援レーザー脱離イオン化フーリエ変換イオンサイクロトロン質量分析法(MALDI FT-ICR MS)で評価した結果、前駆体比率を増加させることで、Ir原子が最大5つまで含まれるクラスターを調製することに成功した。 調製したAu-Irアロイクラスターは、MALDI FT-ICR MSで組成評価し、X線光電子分光(XPS)測定により電子状態を評価した。精製したAu-Irアロイクラスターについて、XPS測定結果を詳細に調べた結果、Ir原子はクラスター構造のステイプル部に存在することを明らかにした。Auのみからなるクラスターとの比較から、Au-IrクラスターのAu4fピークの結合エネルギーがシフトしていることから、クラスターの電子状態が異なることが示唆された。電子状態評価のため、H28年度はクラスターの精製および微分パルスボルタモグラムによる評価を実施した。Auクラスターに認められる、—1価から0価、0価から+1価、+1価から+2価への電子状態変化に加え、Au-Irクラスターでは、+2価から+3価への電子状態変化が観測された。クラスターのHOMO-LUMOを評価した結果、10mVの差が認められ、Irとの複合化により電子状態の異なるナノ材料の開発に成功し、当初の目標を達成した。
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