研究課題/領域番号 |
26410150
|
研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
吉田 裕美 京都工芸繊維大学, 分子化学系, 准教授 (40314306)
|
研究分担者 |
前田 耕治 京都工芸繊維大学, その他部局等, 教授 (00229303)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 電解フローセル / 液液界面イオン移動ボルタンメトリー / 薄層 / タンデム型 / 唾液 |
研究実績の概要 |
本研究は、「分離」「絶対定量」「定性分析」をワンフローで実現するため、タンデム型薄層液液界面電解フローセルを作成するものである。本年度は、次の2項目に関して研究成果を得た。 (1)導電性高分子被覆電極の安定性・耐久性 すでに、薄層液液界面電解フローセルを二つ連結させたプレセルを完成し、それに関する実験を行っていたが、数日で同フローセルの電位がシフトするという耐久性の課題があった。この問題は有機相用電極である導電性高分子被覆電極の電位安定性に起因すると予測し、電位安定性の向上を検討した。その結果、電位安定性が導電性高分子の酸化状態によって影響を受けることを、導電性高分子の吸光分光分析によって明らかにし、最も安定な電位を示す酸化状態調整法を見出した。新規に見出した調整法によって、導電性高分子被覆電極の電位安定性が劇的に向上した。 (2)唾液中成分における分析対象のスクリーニング ターゲットして、生体内成分の微量成分を探索した。各種イオン性ペプチドを検討したが、これまで界面移動できる測定に適した成分を確定することができていなかった。そこで、唾液サンプルから、測定に適した成分が抽出される電位を薄層液液界面電解フローセルに印加し電解抽出することにより、多数の成分から測定可能成分をスクリーニングした。一定電位を印加した液液界面薄層電解フローセルに唾液を流入したところ、カチオン性成分が電解抽出され、唾液が200 倍濃縮された時点で、明確な界面移動を示す電流ピークが観察された。使用された唾液試料は500 μL と少なく、液液界面薄層電解フローセルが薄い濃度の生体成分の濃縮法としても有効であることが分かった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
同研究は、大きく分けて次のカテゴリーからなる。つまり、(1)電解フローセルの改良、(2)新規分離法としての応用、(3)質量分析への導入、(4)測定対象物質の探索である。(1)と(2)に関しては既に着手しており、技術的な進歩がみられている。実際、作成したプレセルは、目的とする絶対定量を実現している。一方、最も困難となっている課題が(4)である。生体内微量物質として、市販されているペプチドやタンパク質をターゲットしたが、タンパク質の多くが界面吸着をし、界面移動しないという結果を得た。また、ペプチドに関しても、測定に適した疎水性を持つものは少なく、多くは親水性であり絶対定量には適さないことが分かった。この課題を克服するため、唾液中の生体微量試料成分をスクリーニングしている。本研究で提案する電解セルを用いて、測定可能な唾液成分を濃縮・分離した。唾液は一般的に各成分とも血液と比較して希薄濃度であるが、同電解セルを用いれば、高濃縮が可能であった。多くの含有成分は吸着あるいは抽出しないために濃縮・分離されなかったが、ある成分に関しては、濃縮・分離され、電解セルで明瞭に定量できることが分かった。現在、その成分に関しては調査を継続している(「今後の研究の推進方策」参照)。なお、(3)に関しては、(4)でターゲットが確定し、それを質量分析で測定できれば、容易に実現できると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
最終年度として、次の課題を推進する。 (A)唾液中未知成分の同定と臨床的意義の探索 既に「進捗状況」で述べたように、本研究にて、唾液中の未知成分を抽出分離している。この成分の同定を行う。すでに、これまでの実験により、同成分がペプチド結合を有していること、適度な疎水性があること、カチオン性であること、15000以下の分子量を持つことが分かっている。さらに、質量分析を利用して同成分の同定を進める。一方、この成分の臨床的意義を明らかにする。ある程度疎水性を有するカチオン性ペプチドの多くは、抗菌性を示すことから、まずは公定法にしたがって抗菌性を調査する。口内環境のバイオマーカーとなる可能性を期待している。 (B)分離部における高い分離能の向上 提案する電解フローセルは、少ないサンプル量で高濃縮を実現するものとして、非常に有用であるが、各成分の分離能についてはかなり低い。イオン移動が実現する時間をさらに短縮し、流路内で連続的に抽出が繰り返される電解クロマトグラフィーを実現する。特に、電解クロマトグラフィーでは、さらに有機相を薄膜化すること、また、流路を延長することが必須であるため、これに関しての改良を行う。
|